DaiOnojima

晩菊のDaiOnojimaのレビュー・感想・評価

晩菊(1954年製作の映画)
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成瀬巳喜男強化期間その4

  芸者あがりの4人の中年女性(杉村春子、沢村貞子、細川ちか子、望月優子)の人生を描く。テーマは「めし」「稲妻」に続き「女性の自立と幸せ」とみた。

 今は金貸しをやっていて、自分自身と金のみを信じて一人で生きてきた杉村、子供はいるが夫はなく、杉村に借金して細々と生活している細川と望月の人生を対比させながら、幸せとはどういうことか問いかける。細川の息子(小泉博)は妾の女と交際していて、挙げ句は職を求め母親に無断で北海道に移住を決めてしまう。望月の娘(有馬稲子。びっくりするぐらい可愛くてヤバい)も親に無断で勝手に結婚を決めてしまう。古い人間関係のしがらみから逃れて自由に生きようとする子供たちを、寂しい思いで見送るしかない細川と望月は、それでも「子供がいて良かった。辛いこともあったが、生んでおいてよかった」と言う。

 杉村は細川や望月からは煙たがられているが、気にする様子もない。昔愛し合った男(上原謙)と久々に再会して、娘のように舞い上がるも、男が杉村の金目当てだと気付くと一気に冷めて冷淡に追い返してしまう。お金しか信じるものがなく、男も子供も友達もおらず、ウエットな人間関係を断ち切って1人で生きている。

 残るひとり沢村貞子の役は夫婦で飲み屋をやっていて、言ってみれば普通の家庭を築いている。なので物語中では狂言回し的な役割で、ちょっと影が薄い。

 弱みを見せず強くひとりで生きようとする杉村と、弱みも脆さも見せながらも生きようとする細川と望月。体裁を捨てた女性たちの本音がぶつかりあう。監督はどちらに肩入れすることもない。どっちが幸せな生き方なのか判断するのは観客だ。杉村は成瀬が描いてきた「自立した女性」像を突き詰めた形で、この時代にひとりで生きようとする女性は杉村のように極端に生きるしかないという諦めと、その生きづらさを描いている。

 そしてここでも「稲妻」同様、男の影は薄い。頼りになる父親も夫も不在。出てくる男は揃いも揃って頼りない、情けないダメ男か、金だけの関係。その割り切りが潔い。

 とにかく出てくる俳優の演技がことごとく絶品で、その演技合戦が最大の見所。65年も前の作品なのに、リアリティのある人物造形と細やかな演出、俳優の名演技で、全然古臭くなってない。これまた傑作と思います。キネ旬7位。(2021/2/21記)
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