半兵衛

チョコレート・ファイターの半兵衛のレビュー・感想・評価

チョコレート・ファイター(2008年製作の映画)
3.6
主人公のヒロインは発達障がいゆえに正義や悪という概念はなく、肉親への愛と貧困への屈辱がスイッチとなって凶悪な暴力集団と戦うのがユニークなアクション映画。また作品内にアクション映画でよくある弱者が悪党に苛められる絵を一切出さず、そうした主人公の暴力への感情を刺激する部分を彼女を一人で育ててきた母親のみにすることで物語をスムーズにさせる一方で、「母への愛」という誰しもがある感情を巧みに突いて彼女の暴れっぷりを大いに盛り上げる。

障がいゆえに内面を出すことができない主人公の心情を映像によるイメージで表現する演出が見事。

母親の病気を助けるためにした行動が真の悪党の逆鱗に触れ、暴力の連鎖がヒートアップしていく後半の流れも観客のテンションを上げていく。

ただ主人公の少女が『マッハ!』を見て格闘の動作を覚えた設定なのになぜかブルース・リーみたいな格闘スタイルの武術を使うのに違和感がある、しかもご丁寧にあの怪気炎まで披露するし。あとで調べると当初はブルース・リーの映像を使うはずだったが、権利の問題で使えず仕方なく同じ監督の作品にしたことを知り納得。

主人公の父親の日本人ヤクザとして阿部寛が登場するが、元々Vシネマなどでヤクザ役を演じてきたしタッパが大きいのでアクションも映えるので特に違和感は無い。ただ娘の類いまれなる格闘センス&暴力への凄まじい衝動を納得させる配役かというと難しく、個人的には凶暴なヤクザ役を演じた&武道にも精通しているというポイントから千葉真一や渡哲也&渡瀬恒彦兄弟のほうが適役ではと思ってしまった。

そしてこの映画最大の魅力はあまりにもガチすぎるアクションの数々、どう見ても本当にパンチや蹴りを当てているとしか思えないし落ちるときもワンカットで地面に落下しているので鑑賞しているこちらが肝を冷やすことに。ちなみにエンディングでそのからくりを覗かせるメイキングが流れるが、あまりの役者の体当たりぶりに「ええ、本当にやってたの?」とビビること間違いなし。

でもアクションの盛り上げ方が上手かっただけに、せっかく後半主人公と同じく障がいを持つ天才的な格闘術の青年が登場しているのに彼を途中で呆気なく退場させる演出に納得がいかなかった。ここは『座頭市物語』みたく、最後に同程度の実力を持つライバルと死闘を繰り広げて映画を最大限に盛り上げる作劇術にしてほしかったかも。
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