1989年度アカデミー賞長編ドキュメンタリ 一部門ノミネート作品。ファッションフォトの第1人者ブルース・ウェーバーが、1989年5月13日、アムステルダムのホテルの窓から転落死した稀代の名トランペッター“チェット・ベイカー”本人が歩む人生の流転をモノクロームの鮮烈な映像美で描き出すドキュメンタリー。
甘い声に端正な顔立ち、それに“チェット・ベイカー“というソフトな響き。この生まれながらにして破滅的な美しさを誇るジャズミュージシャン、チェットに魅せられて集う女達、ジャンキーになるまでの過程や葛藤苦悩を幾多の赤裸々なインタビューで進む迫真のドキュメント・フィルムだった。
チェットの消え入りそうな甘ったるい声で自分が好きな『My Funny Valentine』が流れるシーンにはうっとりして感激。タイトルさながら全編で流れる名曲の数々は最後まで美しい。とにかくパキッとしたブラック&ホワイトのザラついたモノクロームの映像にマッチして、80年代に製作されたとは思えないほどムーディー。
そしてジャンキーと前歯を折られたことなど壮絶で痛々しく絶望的な悲しみ。
こんな良い映画が未だにVHSとは信じられない。