まぴお

ウォーク・ザ・ライン/君につづく道のまぴおのレビュー・感想・評価

3.0
【兄の幻影と闘い続けるホアキンとジョニーの融合】

アメリカのロカビリーの黄金時代を築いたジョニー・キャッシュをホアキン・フェニックスが演じる。
そして後妻のジューン演じるリース・ウィザースプーンは本作でアカデミー賞助演女優賞を受賞している。

歌手の伝記物って知名度があり波乱万丈な生活を送ったからこそ映画になるわけで例外なくこの人も女性問題や酒やドラッグの呪縛に囚われた人生を送った人だ。正直にいうとこの男に同情や感情移入は一切出来なかった。しかし自業自得なダメ男でも女は許しちゃうんだよね。これで世界は成り立ってるから面白い。

彼が兄を小さいころ事故でなくし自分が生きているのは何かの間違いであるとずっと業を背負い続ける様はとても繊細で不器用に映る。

その業から逃れることが出来ずに失敗を繰り返す自堕落な日々。
しかし社会からの挫折や失敗した者にしかわからない歌があるように自堕落で挫折を繰り返してきた者にしか歌えない歌がある。弱いからこそ反骨精神を持ち続け弱者の意識と同化し観客の敬意を集める彼は歌詞に強烈なメッセージ性を感情に乗せて歌を絞りだす。

ホアキン・フェニックスの中にジョニー・キャッシュが乗り移り薬物にどっぷり浸かる。
まるで天才と言われ薬物依存によりこの世を去った兄リバー・フェニックスを思い出すかのように。
「兄ではなく自分が死ねばよかった」というジョニーの父親の言葉は兄ファニックスが眼前で死亡するトラウマという呪縛から逃れることのできないホアキンと重なる。

弱きイノセンスを象徴するその男は権力やシステムに立ち向かう。そして生涯に何度も刑務所の囚人に向けてコンサートを行った彼は負け組への応援歌として囚人に希望を与えた。

彼こそ本物のアウトローだったのだろう。そしてそれを最後まで支えた妻であるジューン。
2ヶ月前に亡くなった妻へあてた最後の歌を彼はこう綴る。

私は何も持ってきていない
旅の重荷になるから
それは精神を解放するための旅だから
今まで私が言ってきたことを繰り返し言うつもりはない
私が息をしていようとしていまいと関係ない
私が向かうのは凍えるような冬の荒れ地のようなところだ
そのうち私という男が分かるだろう
私という男を分かってくれ

このコンサートから2ヶ月後の9月12日にジョニー・キャッシュは妻を追いかけるようにこの世を去る。すごい生き方かもしれないけど真似はしたくないすごく効率の悪い生き様をした男の物語。

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