凛太朗

蟹工船の凛太朗のレビュー・感想・評価

蟹工船(2009年製作の映画)
2.3
日本のプロレタリア文学と言えば小林多喜二の蟹工船というくらい有名な作品の映画化。
1953年版は観てないけど、こっちは原作に比べてだいぶマイルドになってます。というか、もはやファンタジックコメディ?いるのかね?その描写?

第一次世界大戦後の蟹工船というのは、工船であって航船ではないため、航海法は適用されず、かと言って工場でもないから、工場法も適用されず。ということで、大日本帝国の名の下に、資本家のお上がやりたい放題の治外法権みたいな状態だったらしい。
一部の資本家のために、貧困層なりなんなりの環境に恵まれない労働者が、劣悪な環境に身を置いて、奴隷のような苛烈な労働環境の中で過ごす状況が、原作では痛いくらいに描写されているのだけれど、この映画では西島秀俊が演じる監督の浅川が労働者をボコボコにしていたりもするんだけれど、それでもだいぶマイルド。あれ?なんか温くね?みたいな。どれだけの貧乏暮らしをしてきたかってところも何故かコメディタッチだし、恵まれた現代社会に生きてるからなのか、この程度では全くリアルに伝わってこない。現代社会においてこんなもんがリアルであってたまるか。という感じもありますけれども。なんつーか、伝えるべきことは伝えられてないよね?みたいな。言葉も訛り一つないし。

漁夫が蟹工船から逃亡してロシア船に救出されるシーンで、中国人が何やら有り難そうな説法を説く。
貴方達かわいそうね。でも貴方達も悪いよ。誰かのせいにしちゃダメね。みんな一人一人が大事。沢山考えること。一人一人が沢山考えて、一人一人が行動すること。ソシタラキットスクワレマースネェー。みたいな。

その結果、お上に牙を剥いてストライキ及び集団蜂起。
労働者の権利は勿論大事なんだけれど、『一人一人が一生懸命考えて、一人一人が行動する』とは一体?
結局は松田龍平に絆されて、思考停止で徒党を組んでるだけじゃねーのかと。
最後は気づいたような描写もあるけど、最後の最後はやっぱりタガ(ここでは歯車)が外れて集団蜂起を示唆する描写。
なんか違うなぁって感じ。タガを外してどうする。
沢山考えろ。理性的であれ。
別にこの作品、このテーマにおいて、お涙が欲しいわけでも、仲間意識や絆でどうのこうのという綺麗事が欲しいわけでもないです。はい。

で、この蟹工船、カムチャッカの海に浮かんで逃げ場はないと言っても過言ではないわけですが、現代社会に生きる人たち、時には逃げる勇気も必要なんじゃないかと思うわけです。逃げられるという選択肢があるのなら、身体や心を壊してしまってまで耐え難きに耐えてその場にとどまる必要はないと思いますねんな。
勿論、それぞれの生活が第一で、そこに責任やら何やら付随してくるでしょうから、簡単にいくことばかりでもないと思いますけど。
凛太朗

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