真田ピロシキ

蟹工船の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

蟹工船(2009年製作の映画)
1.0
共産党員になって2ヶ月くらいになります。そしたらやはり小林多喜二は読まないといけないと思い、10数年ぶりに読み返したんですよ。人権のじもない非人道的な労働条件で酷使され、金を貯めて出て行こうにも陸ではそれまでの鬱憤を晴らすかのように散財してまた船に戻されるマッチポンプのような搾取構造。それでも無邪気に日本スゴいな愛国心は植え付けられているというThis is Japanな光景は今も変わらない。むしろ、限界まで来ると蜂起の兆しを見せるだけこの頃の方が現代の奴隷と呼ぶのもおこがましいナニカよりずっと主体的に生きていないか?そういう思いを抱かされた。併載された党生活者の方が前読んだ時からも好きなんだけどね。

そういうわけで映画も見ようと思ったのですが、まず第一に思ったのは「糞壺感がねえ!」。画面の暗さで誤魔化そうとしているが、汚さが圧倒的に足りない。漁夫にもたまにしか風呂に入れず虱だらけの不潔さを感じさせない。龍平、随分小綺麗な顔してるな。しかもセットの作り物臭さ。それは映画ではなく舞台のセットを見ているよう。この物語の悪役である浅川監督も変だ。その姿も立ち振る舞いも資本家の卑俗な犬と言うより特撮に出てくる悪の組織の幹部のよう。西島ァ、これは仮面ライダーBLACKSUNではないぞ。しかも変なの。何か生まれ変わって金持ちの何々さんの家の子になりたいとか言ってファンシーな妄想が描かれるの。原作にそんなシーンはない。集団首吊り未遂からしてない。流れる音楽も昭和1桁代には不似合いなロック。プロレタリア文学の代表作を現代のポップな感覚で映像化しましたってか。ナウなヤングにバカ受けだぜ!ふざけんな!!!先に舞台の話をしましたが、小劇団が演る新解釈の蟹工船を映画の形で見せられているよう。マジこれ多喜二への冒涜もの。映画単体で見たとしても駆逐艦の下りが本来ならそれまで漁夫達の帝国海軍への信頼感を描いた上でやらないと裏切られた意味がないのにすっ飛ばされているし、自然発生的になされる組織化の描写も不十分で話が唐突。これじゃ映画公開当時のワープアにも響かない。松山ケンイチ主演の『銭ゲバ』を見た方が良い。

それと一応ロシアに流れ着くことはあるものの、映画にアカ臭さはなるべく匂わせないようされてたように思えた。あれっすかね。どんなに不満があっても共産党だけは反対な普通の日本人様のお心に忖度されたんすかね。日本の歴史において共産党が何かそんなマズいことをやった事例を知らないんですけど、根拠のない反共思想は染み付いていらっしゃいますからね。そんな非合法でもない党をずーっとマークし続けて本当の危険人物や組織は防げなかった無能組織公安が大人向け(笑)アニメではヒーローだぜ!統一教会よりも共産を危ぶみ、「共産党と深い繋がりがある〜」をバカの一つ覚えで発するキモオタミソジニストのクズに煽動されるノータリンが有名人や政治家にまでたくさんいる国ですもんねーくたばれ幼稚園児国家。願望を言うとスパイ小説のような趣もあって面白い党生活者こそ映像化して欲しいけれど、これを見ると無惨な出来にしかならないだろう。拷問の末に殺された多喜二が浮かばれなさすぎる。