きゅうげん

戦火の馬のきゅうげんのレビュー・感想・評価

戦火の馬(2011年製作の映画)
3.8
君の愛馬が走り出し駆けて行く!
舞台でも有名なマイケル・モーパーゴ卿による児童文学作品を、スティーブン・スピルバーグが映像化。

エミリー・ワトソンやトム・ヒドルストン、ベネディクト・カンバーバッチやデビッド・シューリスなど錚々たる実力派を押しのけて、とにかく動物たちがベストアクト!
賢く優しいジョーイと頼れる兄貴のトップソーンや『ベイブ』っぽいガチョウなど、どうやって演技指導したのか不思議なくらい自然な演技をしています。
もちろんスピルバーグの演出は人間でも冴え渡っていて、農耕シーンで集まってくる村人たちや、エミリーが芸を仕込もうとするギャグシーン、中間地帯での口笛合戦など、まるでディズニーの古典アニメみたいな軽妙さがあり、動物映画的な性格ともとってもマッチしています。
それでいて脱走兵の銃殺や塹壕からの突撃戦、毒ガスによる被害など、エグ味も忘れないのがスピルバーグ。

ただ個人的に残念なのは、原作にあったジョーイ&トップソーンのドイツ軍生活がかなり省略されている点……というかドイツ軍が敵として一面化されてしまってるところです。
もちろん新兵兄弟やおデブちゃんなど馬へ寄り添ってくれる人もいますが、彼らはその後みんな悲劇要員になってしまいます。
原作ではドイツ軍の将校も軍医も馬に理解があり、負傷兵輸送をがんばる二頭を兵士のみんなが褒め称え「イギリス生まれでドイツに表彰されるのはお前らが初めてだ!」と鉄十字勲章を厩舎にかけるくらい和やかな空気です。
戦地での目まぐるしく前のめりな展開が原因でしょうが……、もうちょっと原作のヒューマニズムを反映して欲しかったです。