回想シーンでご飯3杯いける

戦火の馬の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

戦火の馬(2011年製作の映画)
5.0
スピルバーグ監督作品の多くで描かれているテーマは「コミュニケーション」だと思う。古くは「未知との遭遇」や「E.T」、以降では「A.I.」辺りがその系譜の代表作になると思う。

そして、スピルバーグの凄い所は、コミュニケーションをテーマにしていながら、その表現を台詞に頼っていない所にある。先に挙げた作品に登場する映画にも言葉を十分に話せないキャラクターが登場している。そして本作「戦火の馬」に至っては、馬が主人公である。当然の事ながら、この主人公に台詞は無い。

ある農家で育ったサラブレットが、第一次世界大戦という戦火の中で辿る数奇な運命。彼も軍の中で足代わりに利用され、更に敵見方を渡り歩く事になる。主人公は何も語らない。言葉を語るのは彼と出会っていく人間達。その人間達の台詞と、馬の表情、動きだけで、反戦や、人同士、人と動物の絆を見事にあぶり出していく。この手法はもう見事としか言いようが無い。

言い換えればこの映画には名台詞が無い。多くの映画が脚本によって感動や支持を集めていく中で、本作はそこから敢えて決別し、とても実験的な手法で感動と支持を集める道を選んだ。その結果は、実験的という陳腐な形容を遥かに超え、見る者をぐいぐいと引き込む、まさに映画の中の映画といった趣の良作に仕上がっていると思う。