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異人たちとの夏のtakaoriのレビュー・感想・評価

異人たちとの夏(1988年製作の映画)
4.2
2024年105本目

アンドリュー・ヘイによるリメイクが大変良かったのでこちらも鑑賞。異性愛を同性愛に入れ替えた以外、基本的なプロットは同じなのだが、それでも映画の印象はかなり違っている。
この88年の大林宣彦版では、主人公はテレビマンとして会社で働いており、彼を信頼して助ける仕事仲間がいるため、完全に孤独な存在というわけではない。ノスタルジーの切なさや幽霊譚としての怖さは共通しているが、大林版は日本が世界一豊かな国だった80年代が舞台ということもあり、「空虚な楽園」と言われたポストモダン・ジャパンのお気楽さがそこかしこに漂っている。だから、主人公のノスタルジーはあくまで個人的な物語にとどまり、「ひと夏の夢」が終わった後にはまた日常の生活に戻っていくことを感じさせて映画は終わる。
対してリメイクのイギリス版は、舞台と登場人物を極限までミニマルに絞ることで、都会で暮らす孤独感や両親を早くに亡くした喪失感がより切実なものになっており、2020年代の生きづらさを痛切なほどに描いている。こちらは単に一人の男のノスタルジーと夢物語というより、同時代を生きる人々が集合的に持っている孤独と喪失を描いた映画だと思う。同じプロットでもここまで違った印象を与える作品ができるところが、映画の面白いところだ。
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