世界一悲しいフェードアウトのシーンでボロ泣きしました。2回目の鑑賞でも関係なく泣きました。いつもの大林監督らしい演出は抑えめで、その代わりドラマとして人物などに力が入っているもよう。人を亡くしたことに対して真摯に向き合った誠の作品。あと映画としてかなり意表をつく面白さ。
なんともノスタルジックな浅草。そして対極のバブルっぽい時代背景。音楽が感情を激しく揺さぶり、特にプッチーニの曲なんかは盛り上がる。とにかくノスタルジーを感じる演出ばかり。
幽霊(異人)たちが不意に現れていく演出も最高。それも普通を装って平和的な現れ方。おどろおどろしい幽霊はラストを除いてあらわれない。両親の優しさも感じる。
両親が良い。父を演じた片岡鶴太郎の江戸っ子感、浅草の親父感。母を演じた秋吉久美子の色気。どっちも優しく我が子を迎える。主人公演じた風間杜夫が両親の前で子供のように振る舞う姿が胸に響く。40代の男が、純粋な子供に戻るといういい演技。だからこそお別れは寂しいしボロ泣きだった。「体に気をつけて」「結局全然食べなかったじゃないか」などじんわりくるセリフも多い。
桂とのベッドシーン。桂の存在は母と次第に同化する。あの母親の色気は大林監督が自身の母が美人だったと言っていることからも自伝的なのかもしれない。桂以上に花火をしている母の方が艶っぽいという。ベッドシーン前に「カルメン、故郷に帰る」がTVで流れているのが面白かった。
ラストの蛇足感。スプラッター的な桂の逆襲はちょっと派手だったが、自分的には面白く見れた。自殺を止められなかったところに現代の孤独が描かれているのだろう。その後も主人公と息子の挿話、かつての家の跡地に行くシーンなど、なんとなくダラダラと続いてしまう。これは大林監督の言いたいことが多かったからだと思う。すっきりオチをつけるのではなく全ての物語にオチをつけなければ気が済まなかったのだろう。それはやはり元来描き続けた過去の人、死んだ人への思いが強かったからだ。死人に口無し、でもあえて語らせるなら何を話させるのか、ということである。ダラダラしてしまっていたが、なくてはいけないシーンだったと思う。
過去を振り返り止まっちゃいけない、けれどもいつまでも忘れないで生きていきたい。この人間の抱える矛盾を、ここまでハートフルに描いたのもすごい。生きる気力が湧く一本です。