みんなの高倉的存在

MEMORIESのみんなの高倉的存在のレビュー・感想・評価

MEMORIES(1995年製作の映画)
4.5
大友克洋原作「彼女の想いで」「最臭兵器」「大砲の街」の短編映画集。とても面白かった。簡単には語れない、なにか抽象的な概念が息を潜めて演出され、これを観た後には誰もが、なんだこの作品は、なんて言えば良いんだ、と考えてしまう。
演出がストーリーを追うありがちな映画スタイルに倣わず、演出主体とでもいうか、演出が作品の意味を作り上げているそんな映画だった。表裏一体、説明不足で間延びしすぎだと感じることもあるだろうが、この映画は大友克洋らしく細かい演出にこだわり尽くした作品になっているように思うので、映像自体や音楽や構成に注目して観れば決して飽きることは無いはずだ。

一般になぜ演出が良いと感じるかというと、演出が生む効果にきちんと意味があって、加えて、演出になにかしら(具体的に何とは分からなくても)意味がありそうだということが分かりやすく伝わるからだ。ここに僕の感じた演出の意味のようなもの(もちろんこれが全てなんて微塵も思ってはいない!)を少し書くので、これを読めば映画を観た時に細部に気づけるかと思って、あえて個々の演出には触れない。

「彼女の想いで」では深く入り組んだ宇宙飛行士ハインツの世界がほぐされて、その表層を見せられて、優しい想像を掻き立てられる。自分の人生がたくさんの感情の機微で溢れているのはみんな同じだけど、僕たちはしばしばそれを忘れがちだ。
「最臭兵器」は箸休め(?)。あからさまなつっこみどころが横たわっているが、そこもおそらく大友克洋の手のひらの上。だって疑問に思わない人いないでしょ。ストーリーは常に合理的に進行するものと思い込んだら楽しめない。なすがまま包み込まれて主人公と一緒にバカになって観よう。
「大砲の街」にはストーリーなんて無いも同然。ただただ、大砲の街に住む家族の一日を追体験する話。大した中身はない。僕らに分かるのは彼らが何かと戦っているということだけ。しかしそれは、大砲の街に住んでいる人々も同じなのだ。

おこがましくも大友克洋ワールドに片足を踏み入れた気になれる良い短編集だった。是非漫画原作も読んでみたい。