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マイマイ新子と千年の魔法のdeenityのレビュー・感想・評価

マイマイ新子と千年の魔法(2009年製作の映画)
3.8
昨年度話題になった『この世界の片隅に』の監督の作品です。前作が個人的には大ハマりしたこともあり、期待値はかなり高めでしたが、前作同様ほんわかしたタッチで描かれている作画はもちろん、リアリティを感じる世界観はノスタルジックな気分にさせてくれて、アニメ界のレジェンド『ジブリ』にも似通った空気感が本当に素晴らしいです。

実際本作は山口県の昭和の街並みを再現していることもあり、行ったこともない場所なのに郷愁の思いを抱いてしまうのは不思議な魅力でもあります。
その一方、本作は非常に地味。主人公の新子が千年前のこの土地に思いを馳せ、空想の中でタイムスリップを何度となく繰り返しますが、これといった大きな展開もなく、やや倦怠感を持つ人もいてもおかしくはないと思います。

ただ、この異常なまでに懐かしく、むしろ物悲しく、そして羨ましくも思ってしまうのは、彼らの空想の世界に浸って純粋に味わって遊ぶことができる年齢に対してでしょう。
自分にも同じ経験があります。頭の中の空想で友達とごっこ遊びをしたこと。堤防を駆け回ったりちょっと遠くまで自転車旅をしてみたこと。空想でしかないその世界が、作り物とわかっているその世界が、確かにあの瞬間には自分のすぐそばにあって、いつでも行き来できた経験。空想の世界を思い描きながら、自然を駆け回る新子。それを一緒になって楽しんでくれる仲間。この上ないノスタルジーが込み上げてきます。

地味とは言っても展開はもちろんあって、タツヨシの件です。ああやって他学年が分け隔てなく遊び合うのも実に温かい部分ではありますが、一番大人でしっかりしたタツヨシから笑顔が消えてしまうある事件が起きてしまいます。今思えば無謀です。それでも、来るはずの笑い合える未来のために立ち向かっていく様は、そしてそこまでの過程で少しずつ空想が薄れて大人になっていく様は、どうしてこんなに心を打つのでしょうか。新子とタツヨシの行動は、大人になるための問題に立ち向かったわけではない。子どもとして、明日素直に笑うために問題に立ち向かっていったのだ。だからどんな結果だろうが、立ち向かった彼らには最後に笑顔が戻るのだ。

自分にもそんな時代があった。現実世界とは表裏一体の世界を感じられる時代。仲間たちといつまでも笑っていた時代。貴伊子の描写が感情移入に欠けたためにまだこの作品をきっかりと受け止めきれてはいないですが、十分にいい作品と言えるでしょう。
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