カラン

ディーバのカランのレビュー・感想・評価

ディーバ(1981年製作の映画)
3.5
ジャン・ジャック・ベネックスが35の時の作品。

青春のころは、映画好きなら『グランブルー』だろ、みたいな空気がライト層にはあった。他にもっとあるでしょって感じでしたね。もうちょい高尚なものが好きな連中は『ベティブルー』とか『ポンヌフ』こそが本当の・・・みたいに言っておったような気がします。20年以上前、フランス映画が元気であった時代の話しです。私は当時はお色気ものばかり観ていて、シャロン・ストーンの『トータルリコール』と墨田ユキの『濹東綺譚』と羽田美智子の『人でなしの恋』とか、あとウィノナの『ドラキュラ』が好きだったな(爆)

JJBの映画は、最初に『ベティー』を観たがベアトリス・ダルの前歯しか覚えていない。その後『青い夜の女』を観て、なんかこの監督は精神分析を齧ったんだなぁと思った。今回、この『ディーバ』を観て、3作の中で一番良かったと思う。

とりあえず、ショットが決まってる。ブルーを基調とした色彩も、飽きずにずっと観ていられる。ストーリーは監督の思いついたショットを繋げるための後付け的なもの。小説の原作があるようだが、この映画を観てみて読んでみようとはまず思わない。

例えば、若くて貧しい、大学を卒業したとは思えない郵便屋がオペラにやたらと詳しいって、JJB自身がどうだったのか知らないが、あり得るの?フィルマのシネフィル君がジョセフ・ロージーの『ドンジョバンニ』を観て、ただのオペラじゃないかと呟いていたが、それが普通でしょう(もちろんそうなるのはロージーのせいでもモーツァルトのせいでもない)。あるいは、この青年がオペラ歌手のライブを盗み撮りし海賊版を作ろうとする台湾のゆすり屋が出てくる経緯となるのだが、膝の上のバッグにレコーダーを入れてこっそり録音した機械が、たとえ「スイス製の高級品」でも、オペラの愛好家を喜ばせる音源を作るのは不可能である。素人の膝の上に隠されたマイクで、ソリストとオケによる大きな演奏を録音できるわけがないし、そもそも会場もお洒落だがまったく大きさが合ってない。オケのメンバーがはみ出しているのだから。これ以外にも、ただの郵便屋が地下鉄構内の階段をバイクで降りるとか、無茶な話が多い。

おまけに、アフリカの歌手にイタリア語だかフランス語のオペラを歌わせるのも、たとえアヴェマリアの最中で「なんか変」と中断させる演出が入るにせよ、素朴な西洋中心主義の匂いがする。こういうことは、映画の全篇に散在しており、ベトナムの女の子は万引きの常習犯でフランス人の男の言いなりになっているし、おっぱいが小さいことを恥じらっているかのように、胸の中にリンゴを入れさせたりする。また、海賊版のゆすり屋は台湾人と名指されているし、なんだか、この映画は陳腐で素人臭い設定が多い上に、人種的偏見までそこかしこで露呈する始末なのである。

しかしだ、無邪気に喜ぶ気にはなれないのだが、ショットはだいぶ冴えている。極端な実験的アートムービーのような、物語性を完全に排除したショットは出てこない。たぶんモチーフがストーリーラインに即しているからだろう。色とカメラの位置がいいのかもしれない。くだらないし、もう観ることはないだろうが、観ていて、そこはかとなく幸福になるショットがいくつもあった。
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