かなり悪いオヤジ

ミーン・ストリートのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

ミーン・ストリート(1973年製作の映画)
3.3
60年代ニューヨークのリトル・イタリーが舞台。一時はカトリックの修道士を目指していたマーティン・スコセッシの自伝的作品と言われている。若きハーベイ・カイテル演じる下っ端ヤクザ・チャーリーがおそらくはスコセッシの分身であろう。仲間に金を借りても一向に返そうとしないいい加減男ジョニー(ロバート・デ・ニーロ)を、なんとかまっとうにしようとある意味救世主の役をかって出るチャーリーは、どこかイエス・キリストに通じているのかもしれない。

しかし、どの映画を観ても大体同じような演技をしているカイテルははっきり言って面白くない、意外性がないのである。どちらかというと昔気質の保守的な演出とハッとするような暴力シーンが見処になっている場合が多いスコセッシ作品。本作においては実験的に即興演出を取り入れているらしいのだが、お世辞にもはまっているとは言い難い。ストーンズをはじめとする劇伴のチョイスもありきたりな楽曲ばかり。リトル・イタリーの小さいエリアの中で、金を返す返さないで仲間同士が小競り合いを繰り返しているだけの、ちんまいストーリーなのである。

私個人的には“駄作”の部類にはいる1本なのだが、唯一光っていたのが、デ・ニーロの役作り。直近の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』で強面のフリー・メイソンを演じた人と同一人物とは思えないほど、ひたすらチャライのである。仲間との約束をすっぽかしては「(すっとぼけた)WHAT?(ふぁ~)」を繰り返すジョニー・ボーイ。夜中にエンパイア・ステートに向けて拳銃を乱射するは、エキストラの女の子のお尻をツネツネするはのヤりたい放題。こいつ最後は絶対ヤクづけになって道端でのたれ死だわ、って思わせるぶっ壊れた演技を見せてくれている。

役になりきるってのはこういうことをいうんだね。万事一本調子のハーベイ・カイテルとは真逆のアプローチは、観ていて本当に楽しくなる。実際スコセッシのダチの中に、ジョニー・ボーイのようなイカれチ○ポ野郎がいたようで、修道士の道を諦める原因のひとつになったようなのだ。仲間内の復讐を恐れてデ・ニーロ演じるジョニーがバックレている間、映画はなぜか停滞し動きを止めるのだが、ジョニーがスクリーンに顔を出した瞬間、デ・ニーロのアドリブに合わせて他のキャラがイキイキと動き出すから不思議である。