JAmmyWAng

罵詈雑言のJAmmyWAngのレビュー・感想・評価

罵詈雑言(1996年製作の映画)
4.5
ビートルズがやって来るのならヤァ!ヤァ!ヤァ!だけど、渡辺文樹が街にやって来ればキャー!キャー!キャー!である。

僕が昔住んでいた田舎町にも、渡辺文樹はこの『バリゾーゴン』と共にやって来て、町に散乱する異質なポスターが、退屈な景観を不気味に塗り替えていった事を、今でもよく覚えています。(ポスターを描いた河合規仁の絵は、とても幻想的で、どこかノスタルジックで、そしてやっぱり不気味なのであります)

「福島女性教員宅便槽内怪死事件」という、何とも腑に落ちない実在の事件があって、今作はその真相に迫るべく、関係者へのインタビューを繰り広げていくという、渡辺文樹によるドキュメンタリー風の作品であります。

しかしそれはあくまでドキュメンタリー「風」なのであって、実際のインタビューの合間合間に、渡辺文樹自身の見解による、極めて恣意的な過去の再現ドラマが平然と織り込まれてくる。そのどちらもが素人によるものなので、映像的な雰囲気は(一部を除いて)ある程度の一定性を保っていて、映し出される光景の現実/虚構という境界が、なかなかに曖昧な性質を帯びているワケです。

庶民である僕は、何とかこの作品の中に、僅かでも事件に対する公平性を見いだそうとしてしまうのだけれど、ここにそんなものは微塵も存在しない。映し出されるすべては、渡辺文樹の事件に対する怒りそれ自体の表出なのであって、その為には手段は問わないという、一方向的な純粋性(狂気とも言う)の疾走なのであると思うのです。

実際性と演出性の入り混じる光景の中で、場を変え人を変えて勇猛果敢に突撃しまくる渡辺文樹本人の存在が、疑いようのないリアルとして躍動している。それはあからさまに野蛮でありながらも、スリリングでバイタルな実在性に満ち溢れていて、ハッキリ言って素晴らしいと僕は感じてしまうワケであります。

前作にあたる『ザザンボ』においては、凄惨な暴力は暗闇の中で行われていたワケなんだけど、今作では白昼の明るさの中で暴力が露呈する。それにも関わらず、個人は様々な権力や組織の歪んだ思惑に覆われていき、ある意味では共同体に捧げられた生贄として、結局その命は闇に埋もれてしまうのかもしれない。

渡辺文樹は、そんな不条理を徹底的に許していないし、その想いを表現する事に負い目がない。負い目が無さ過ぎて色々とヤバイ事をするし、そしてヤバイ事になるワケなんだけど、とにかくこの人はカッコイイ。僕はこんな大人になりたかった気もするし、ならなくて本当に良かったとも思う。
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