大傑作。ヴェラ・ヒティロヴァ長編五作目。FAMUで映画を学ぶ前は建築科にいたというヒティロヴァによる狂乱の団地映画。1970年の『楽園の果実』以降、映画製作を禁止されていたヒティロヴァだったが、70年代後半になって規制が緩んだことで再び映画製作に返り咲いた。舞台はプラハ南東部にあるJižní Městoと呼ばれる大規模団地である。当時のプラハではアパートが極端に不足していたようで、1976年にアパートが完成するとすぐに部屋の引き渡しが始まった。しかし、道路や公共施設など未完成も部分も多く、生活と大規模工事が並行して行われていた。作中に登場する道路は基本的に完成しておらず、路肩には土の山が出来ていたり、マンションの外階段が地面に付いていなかったり、そこかしこで工事が行われている。物語は娘の一家を訪ねて田舎から団地にやって来た世話好きな老人と幼稚園を抜け出した悪戯小僧を軸にしながら、様々な人物の雑多なエピソードがグランドホテル形式で語られる。まるでロバート・アルトマン『ナッシュビル』のようだが、シーンの合間に挿入された窮屈で露悪的な風景ショットはアンジェイ・ズラウスキのそれに近い(特に冒頭の夜明け前の団地風景)。しかし、それらよりも先に思い出したのは、キラ・ムラートワ『Getting to Know the Big Wide World』である。建設中の団地で繰り広げられるカオスな恋愛映画ということで、この狭すぎるジャンルで同時期に(同作は1978年製作で本作品は1981年製作)ここまで似通った作品が生まれるのかと感動すらあった。しかも、本作品もムラートワに似て全てが過剰なカオスとして構成されているのだ。ムラートワは新たに出来上がっていく都市と恋愛を重ね合わせたのに対して、ヒティロヴァは未完成の住宅地を"正常化"時代の縮図として描いたのが違いか。多くの乱立するエピソードに共通しているのは、背景で延々と工事が進められている様であり、労働者や警察の怠惰や隣人コミュニティ内での無関心までもが重なり、生活するはずの場所で"生活"そのものが脇へ追いやられ、機能不全に陥っている。そして、小さなエピソードとして、何年も待たされた結果、未完成の棟に勝手に住み始める家族や休憩していたら納期に間に合わない!とキレられる労働者の話などにも触れられる。