安堵零馬山

ピカソ-天才の秘密/ミステリアス・ピカソの安堵零馬山のレビュー・感想・評価

2.5
ピカソは絵が下手だ。

この映画を見ているとそのことが実感できる。かつては優れた画家であったことは認めるが。だが、この映画の制作時1955年にはその名声に見合う作品はもはや描けていない。

それはピカソと云うブランドを確立して以降、彼にとっての絵の善し悪しの判断基準が、自らの世界でしかなくなってしまったことによる。この事はあらゆる画家が陥る罠だが、特にピカソは自ら確立したキュビズムの呪縛により、その才能をむしばまれてしまった。

この映画は絵の制作過程を丁寧に追っている。クルーゾーは、そのことでピカソの天才と云う名声に迫るつもりでいた。だが、結果として、もはや信ずべき美の基準を失ったかつての天才のあがきを暴きだしてしまっている。

冒頭描いた線は自在な筆致の面白さはあるが、同時に欠けた存在としてその生の線はある。もはや線だけでピカソは勝負する自信はない。形はキュビズムの感性によって変形される。だがそれは何度も描き直され、最終的には、自ら作り出した形象の模倣となった段階でようやく終了する。活気のある上手い絵が、どんどん精彩を失っていく様を、この映画は残酷なまでに描きだしている。

一度確立した名声に人々は何の疑いももたない。おそらく純粋に絵を見ることの出来るひとだけが、零落した才能と云う〈秘密〉を知ることが出来るのだろう。
安堵零馬山

安堵零馬山