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イブラヒムおじさんとコーランの花たちのakrutmのレビュー・感想・評価

3.5
子供に興味を持たない父と二人で暮らす少年モモと雑貨店を営むトルコ人のイブラヒムおじさんの交流を描いた、フランソワ・デュペイロン監督のドラマ映画。

ストーリー的にそれほど深みがあるわけではなく、期待していたほどの作品ではなかったが、自宅の窓から見えるブルー通りの娼婦たちや近所の娘との交際を通じてモモが性に目覚めるという青春映画的な側面もあるし、後半はアッバス・キアロスタミを彷彿とさせるモモとイブラヒムおじさんのロードムービーとなるという点で、(悪く言えばまとまりがないとも言えるが)娯楽的な要素がたくさん詰まった映画であると言える。フランス映画としては珍しく、60年代のアメリカン・ポップスが多用されているのも魅力的。

また、多文化・多宗教のパリの下町の風景が印象的に描かれている点が好感が持てる。タイトルに「コーラン」とあるが、小難しい宗教の話が出てくるわけではない。イブラヒムおじさんが信仰しているのが、イスラム教の中でもちょっと異端である、内面を重視して神との一体化を目指すスーフィー教であるというのも興味深い。セマーと呼ばれる回旋舞踊のシーンも出てくる。

イブラヒムおじさんを演じたエジプト出身の国際的名優オマー・シャリフの貫禄ある演技はさすが。少年モモ役のピエール・ブーランジェは、約250人の候補者から選ばれて、本作で映画デビューとなり、現在でも俳優として活躍している。本作が本格的な映画デビューとなる少女役のローラ・ネマルクがかわいい。イザベル・アジャーニが女優役としてほんの少しだけ出演している。

原作は、現代フランスを代表する作家であるエリック=エマニュエル・シュミットの『目に見えないものの循環』シリーズの第二作となる同名小説である。このシリーズはさまざまな宗教や信仰・文化をテーマにした作品から構成されていて、現在までに8作が出版されている。仏教も取り上げられていて、特に第5作目にあたる『Le Sumo qui ne pouvait pas grossir』は、東京を舞台とした少年と相撲力士の交流の話みたいだが、10ヶ国語以上で翻訳されているにも関わらず、日本語版も英語版も出版されていない。
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