Ryoma

ドゥ・ザ・ライト・シングのRyomaのレビュー・感想・評価

ドゥ・ザ・ライト・シング(1989年製作の映画)
4.5
映画や文学で「社会問題」を描くのは難しい。それは社会問題っていうのが元来リアルで具体的な性質を帯びているからであって、それを「物語」で描こうとすると、どうしても直接的というか凝り固まったイマジネーション的というか、とにかく「想像力の広がり」を持ちにくいのだ。例えば「メッセージ性」などといったものはその代表例で、ある方向への矢印のようなメッセージでは、芸術の醍醐味である「イマジネーションの伝達・拡散」は決して実現できなく、「社会問題」などの現実的な問題を描いた作品は、そういった「凝り固まった」メッセージ性に陥りやすいのだ。
しかし、この作品は、全くそんな一方方向の「メッセージ性」などは皆無である。多面的・創造的に「社会問題」を包み込み、「作品」に昇華することに成功しているのだ。そうするとどうだろうか、少なくとも僕には、他の「社会問題を描いていない」「個人的な」作品たちよりも、より一層の輝きを放って、同時に、力強く残酷に、まるで赤黒い血のりが脈を打つように、「映画の力」がみなぎっているように感じられるのだ。これは本当にすごいことだ。映画のマジックと言ってもいい。
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