アリスinムビチケ図鑑

ドゥ・ザ・ライト・シングのアリスinムビチケ図鑑のレビュー・感想・評価

ドゥ・ザ・ライト・シング(1989年製作の映画)
4.0
アカデミー賞を取ったグリーンブック絡みで、作品賞を逃した『ブラック・クランズマン』監督"スパイク・リー"作品と言う事で観てみました。

以前、フォローさせて頂いている方の『グリーンブック』のレビューで、過去のアカデミー賞について触れられていて、
そのレビューに感銘を受けたのと、作品に興味がでたのがきっかけです。


この作品はスパイクリー監督が、俳優と監督を兼ねていて、
全体的には、
黒人街の生活風景、何気無い毎日を見せる前半パートと、
ある事件をキッカケに燻っていたものが一気に爆発する暴動の様子を描いた群像劇で作られています。

ありのままに近い生活風景が覗け、
感情の燻り、感覚の違い、感情の爆発が上手く描かれているのが特徴的です。

随所にマルコムXの名前や、エンディングのテロップに書かれた名言などでも、
監督がマルコムXをリスペクトしているのが観て取れます。


一歩動けば汗が滴り落ち、
ラジカセから流れて来る音楽がやけに煩く響く、
茹だるような暑い夏の日々。

ブルックリンの黒人街は、
何時もの様に若者達の喧騒と笑い声が響き渡り、
ラジオ局のDJの掛ける曲が時を刻むかの様に、
何気無い毎日が繰り返されています。

街にある唯一のピザ屋は、イタリア人親子が長年経営し、
若者達がまだ子供の頃から見守るかの様にピザを焼き親しまれている店でした。

そこにやって来た青年が店主に問います。
『何で、ここには黒人の写真が飾られて無いんだ?』
『黒人の写真も飾れよ!ここに食べに来るのは黒人なんだから!』

店主は答えます。
『ここは俺の店だ!俺はイタリア人を飾りたいんだ!』
『黒人の写真を飾りたいなら自分の家に飾っとけ!俺の店は俺の好きな写真を飾る!』

腹を立てて青年は店を飛び出し、"ボイコットをする!"と声高らかに宣言します。

ラジカセを抱え、ヒップホップを大きな音で鳴らしながら青年がピザ屋にやって来ます。
オーダーの声も全て掻き消される程の音量に店主はラジカセを止める様にと注意します。

大好きな音楽にケチをつけられたと青年は怒り店を後にします。

吃音(どもり)の青年は毎日マルコムXの写真を売って日銭を稼いでいます。

ピザ屋で親子三人が話し合いをしている時に窓越しに彼が写真を売りに来ますが、
息子の1人が彼を煩いと追い払ってしまいます。

店主は慌てて"写真を買うから"と追い駆けますが、彼は怒りながら立ち去った後でした。

そんな三人の店への不満が、
あの悪夢の一夜を引き起こす恐怖の扉を開けてしまうのでした…。


怒りが怒りを呼び、暴力が暴力を生む虚しさ、
夫々が、肌の違い、人種の違いを根っこの部分で受け入れ切れない悲しさ、
群集心理の恐ろしさ、不条理さが見事に描かれていました。

前半の何気無い日々が後半の悪夢をより引き立て、
そこにある温度差やコントラストの激しさ、
煩いほどに溢れ出す剥き出しにされた怒りの感情達に目を奪われ離せませんでした。


人種差別にスポットを当てたり、クローズアップをした作品が数多くありますが、
何気無い日々から起こる惨劇を描いているだけに、
日常起こり得る恐怖が潜んでいる事に驚愕をするのと同時に、
よりリアルに問題を感じ取れました。

スパイクリー監督ならではの表現に唸らされる力のある作品でした。