Eegik

エル・スールのEegikのネタバレレビュー・内容・結末

エル・スール(1982年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます


娘と父の話。 うーん……いろいろと考え抜かれて撮られている映画なのはわかるが、前作と同様にこちらも自分の力・感性が及んでいないかんじはする。

光/影をこれでもかと強調する演出。主人公の顔の片側だけに強く光があたり、もう片側は影で覆い隠されてばっかり。都会と田舎のあいだにある一軒家〈かもめの家〉で暮らす家族。家の前の通りは〈国境〉と呼ばれる。北と南。彼女の顔を南北に分断する山脈のように中央に横たわる高い鼻梁。

父親に憧れ執着する娘。近親相姦的というか、精神分析が生き生きと跋扈できるさまが浮かぶ。
『ミツバチのささやき』では父親どんなポジションだったっけ。蜂を飼ってたんだよな。
映画(虚構)と現実、という対比のモチーフも前作から引き継がれている。ただし今回は父親を介して。
主人公が後半で成長して大人びるのには驚いた。はじめから大人になった彼女の回想の体裁ではあるので予告されてはいるが。
〈南〉へ旅立つラストは希望的か、それとも破滅の始まりなのか。

めっちゃ感動はできないいちばんの理由は、結局、オトコ(父親)が昔の恋人(元映画女優)を忘れられずにウジウジしてるのを娘の視点から深遠な〈謎〉のように大層なモンに見せかけてるだけじゃーん、と思ってしまうから。男性の典型的なしょうもない自己憐憫や「生の陰影」を、少女の目を通して神秘的で美しいものとして表現するスタンスには乗り切れない。

主人公がベッドの下に隠れるシーンすき。『劇場版 デジモンアドベンチャー』の妹のカットはこれが元ネタなのか。

『ミツバチのささやき』で何より圧倒されたのはあのフランケンシュタインのシーンで、あの怪物は虚構的存在だが、そういう映画があるのは現実で、それが画面越しではなく目の前にいるのは非現実的で、しかしこの実写映画で撮られている以上、実体を伴った存在であるのもたしか……という4重5重のファンタジー/リアルをたった1つの演出によって表現せしめる実写映画の力に打ち震えた。いっぽうで今作にはそうした明確なファンタジー要素はなく、その意味でも前作よりも大人びた/老成した作品となっている。
Eegik

Eegik