ツクヨミ

エル・スールのツクヨミのネタバレレビュー・内容・結末

エル・スール(1982年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

父子の関係.語れたことと言えなかったこと、繊細すぎるタッチで綴られる動く絵画。
ビクトル・エリセ監督作品。最新作公開記念で"ビクトルエリセ特別上映"としてリバイバルしてたので見に行ってみた。
まずオープニング、黒背景スタッフクレジットの途中からゆっくり光さす小窓が出現、またゆっくりと淡い朝日が陽光として差し込まれるとベッドに横たわる少女へとカッティングする。次第に淡い白からオレンジへと変わる光と美しすぎる構図、まさにレンブラントの絵画を映像化したような映像に痺れまくりだった。
まあ本編はオープニングによって示唆された"父の失踪"をめぐり主人公エストレリャの過去回想がゆっくりと展開されていく、両親とのささやかな日常と南からやってきたおばあちゃんと養母おばさんと過ごしたりと"ミツバチのささやき"と同じく牧歌的な映像が続く話だ。なので物語としては特に無いと言いたいが、幼い少女が好きな父親の小さな秘密を知ってしまったことからちょっとしたゴタゴタ話が展開される。だがしかしエリセ特有の繊細なタッチな描き方のため、サスペンスや家族喧嘩などは描かれないあくまでもドラマとして小さな事件が起こっているスタイルがやはり素晴らしい。
あとやはり監督前作"ミツバチのささやき"と比べるとモノローグによりやや語りすぎな面もあり、しかし本当に謎な父親の心情やエストレリャの心情はしっかり描いていない点がミソになっているのがエリセらしくて良い。正直初見ではわからなかった父が死んでいた事実、自分が秘密を追求したことで父が死んだと感じたエストレリャの気持ちが悲しみと焦燥に変わるラスト、そしてそんな気持ちに区切りをつけてエルスール(南)に旅立つことを決意するエンディングは希望と解放に満ちていてすーっと物語が入ってくるようだった。だが一点、今作当初は2時間半ぐらいでエンディングの後にエルスール編が描かれるはずで実は未完成問題を考えるとやや物足りなく感じてしまう。やっぱり現実もあるがその先が見たかった、無いものねだりにしかすぎないが。
そして映像的には流石エリセ監督、素晴らしいの一言。前作"ミツバチのささやき"でも顕著だった絵画みたいな美しさがさらに影濃くなりレンブラントを思わせる映像に形態変化し痺れる。あと左右対称→左右対称のディゾルブ、顔面クローズアップからの背景ディゾルブとか編集もまた相変わらず良かった。エストレリャのビジュアルもあるが流石の少女描写はウットリするショットを紡ぎ出す、エリセが少女を撮っただけなのに何故こうも心に残るのだろうか。
あと最近だと"aftersun"が今作を元ネタにしたと考えると1番しっくりくる似たプロット、あっちはめちゃくちゃエモーショナルな仕様だったけど同じ題材でもエリセはセンチメンタルになりすぎない微妙なライン引いてそうだとも感じた。
結局モノローグで語りすぎとか、未完成とかいろいろあるがやはりエリセ監督の繊細なタッチが映える名作で素晴らしかった、今作も"ミツバチのささやき"と共に心の奥底に刻んでいきたい。
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