都部

さくらももこワールド ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌の都部のレビュー・感想・評価

4.4
ジュークボックスミュージカル映画として非常にウェルメイドな本作は、原作者のさくらももこによる情緒的な脚本の妙を十二分に引き出すことに成功しており、後年にも語り継がれる余地を持つ時代性も噛ませたアニメーション映画として本当に素晴らしい出来である。

序盤 花輪家のロールスロイスに乗って静岡に向かうまる子を大瀧詠一の『1969年のドラッグ・レース』を背景に描くところから始まるが、小市民のまる子が高級車に乗って静岡に向かう際の高揚感を多彩なモチーフとカットで見せる この表現力の偉大さたるや。それ以降にも度々挟まれる既存の楽曲を効果的に弄ぶミュージカルパートは、子供達に宿る童心ゆえの憧憬や夢見心地を非現実的な絵面と共に成立させるものとして置いていて、それは物語を豊かにするだけでなく本作のもう1人の主人公であるおねえさんこと木村しょう子の少女から大人になることを迫られるドラマにより現実感を与えるものとしても機能している。だからそれはサイケな出鱈目のようで、非常によく考えられた要素の加え方で感心というか感服せざるを得ない。曲もいいですね。『星を食べる』とか『買い物ブギ』とか、ちびまる子ちゃんという作風に準じた/あるいは正反対の作風の曲を意図して取り上げるセンスの良さ。

物語の主軸に据えられる『めんこい仔馬』。
これは作中で"戦時中で軍馬として狩り出されていく仔馬を想う曲である"ことが明かされるのですが、これに重ねる形で大人になる事を強いられる選択としてある嫁入りを物語っているのが時代を考えるとエッジの効いたそれである、子供であるまる子/大人になるおねえさん/そしてかつて大人にならざるを得なかった美術の先生、この子供から大人を巡る曲に対する視点がそのまま物語への当人達の姿勢として作中に存在していて、それは結果的に大人と子供の視点が同居した視野の広い物語性を生んでいる。だから一面的な感動話として本作が処理されることはなく、子供と大人の間にある壁を示唆しながらも、変わらないものとして存在する絵を子供と大人を繋ぐ小道具にしているのがたいへん憎いですね。

映画としての情緒的な場面を演出しながら、ちびまる子ちゃんの現実に根付いたギャグとしてのエッセンスも忘れない場面の構成順もかなり凝っていて、非常によく練られた素晴らしい作品であると思いました。
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