緋里阿純

オデッサ・ファイルの緋里阿純のレビュー・感想・評価

オデッサ・ファイル(1974年製作の映画)
3.5
『ジャッカルの日』のフレデリック・フォーサイス原作の同名サスペンス小説の映画化。
かつて第二次世界大戦時に強制収容所に収容されていたユダヤ人老父の自殺を機に、彼が書き遺した当時の凄惨な様子を記した日記を手にしたフリーライターの主人公ピーターが、元ナチ要員を支援する秘密組織「オデッサ」の秘密を追う。

冒頭、「オデッサ」が暗躍するイスラエル消滅計画を察知したイスラエル諜報部員、夜の街でジャガーを走らせるピーター、自殺したユダヤ人老父と彼の遺した日記の記述がテンポ良く展開される。

事件を追う中で、ユダヤ人と諜報部員によるレジスタンスの協力を受け、「オデッサ」に潜入する事になる中盤のスパイ活動もハラハラさせられる。

ピーターが何故執拗に元収容所長ロシュマンを追うのかが明かされるラストまで、要所要所で光る物がある。
また、全編通して街並みや風景が美しく、画作りにも拘りが見られる。

ただし、原作準拠なのか、映画化の際の脚色によるものかは分からないが、全体的に粗さも目立つ。
そもそも、ピーターが「オデッサ」に目を付けられるキッカケは、不用意にパーティー会場でカメラのフラッシュを焚いたからである。その後、暴行され帰宅する様は、見様によってはギャグにさえみえてしまう。
ピーターの殺害を命じられた殺し屋も、偉そうに椅子に腰掛けて一点のみを見つめて待ち構えた事で、ピーターにアッサリ不意を突かれ、仕舞いには工場の屋根から落下して串刺しになる。
肝心のクライマックスでのロシュマンとの対峙でさえ、淡白で盛り上がりに欠けるアッサリな物だった。

特に、クライマックスでのロシュマンとの対峙は、彼の悪行を考えればもっと凄惨なものであっても良かったように思える。彼の住居である古城の窓から落下するなど。そもそも、このロシュマンという人物は実在の人物であり、史実では心臓発作によって突然死するという、被害者達の事を思うとあまりにもやり切れない最期を迎える人物だ。だからこそ、フィクションの上では強烈な一撃を見舞ってほしいと思ってしまうのだ。
この辺り、同じ暗い歴史へのフィクションによる逆襲モノでも、クエンティン・タランティーノ監督ならば、もっと容赦なく徹底的にやるのになと思う。

本作の見どころの一つである秘密組織への潜入調査も、潜入時の面接こそ緊張感があったが、ピーターが恋人への電話を我慢出来なかった事でアッサリと疑われてしまう。スパイ要素が肝になるかと思われただけに、これには肩透かしを食らった。

時代なのかもしれないが、音楽が平坦で凡庸、時にマヌケにすら聞こえるのも頂けなかった。それは、ストーリーに於いても言えるが。

題材は面白いだけに、現代版のリメイクが観てみたいと思わずにはいられない。優れた監督や脚本家が携われば、物凄い名作に化けそうな予感さえするのだが…。
緋里阿純

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