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男はつらいよ 寅次郎夢枕のmatchypotterのレビュー・感想・評価

男はつらいよ 寅次郎夢枕(1972年製作の映画)
4.0
『男はつらいよ』シリーズ、第10作目。

ついに大台に到達したけど、これでもまだ全体の20%ぐらいっていうんだからやっぱりスゴいわ、このシリーズ。
まだまだ自分も奮闘努力が足りない。

今回も寅さんの夢物語の寸劇から始まる。
「お、お前は“マカオの寅”!」
「親分、今日は私の手で地獄に行ってもらいますよ」

寅さんが真面目な顔して物騒なことを言うこの冒頭の掴みから、今回も何から何まで笑わせてくれる。やっぱり楽しいわ、このシリーズ。

団子屋に寄るのに帝釈天の前を通りかかると、近所のおばさんが子供を叱るのにこう言う。
「こら、何やってんのよ!そんなことしてると寅さんみたいになっちゃうよ!」
これを聞いて、ひねくれた寅さんはまた“ゾーン”に入る。

その“ゾーン”に入ったまま団子屋を通るとケラケラといつもの団欒が聞こえる。すると、寅さん。
「どうせ、お前ら、俺の悪口言って笑って楽しんでんだろ!そう簡単に戻ってやるもんか」と。

それでどこ行くかと思えば、裏のタコ社長の所。この行動範囲の狭さ、タコ社長の工場で工員たちに八つ当たり。

するとひろしが
「何も笑ってるからと言って陰口叩いてるとも限らないでしょ!ぢゃあ、兄さん、何ですか?兄さんは悪口言う時しか笑わないんですか?」
寅さん、
「お、お前、理屈並べて逃げようってんのかい!」

この“ゾーン”に入った寅さんの偏屈さ。
偏屈なだけならまだしも、周りにぶつかりまくって巻き込みまくって騒ぎを大きくする、、、今回もとんだ傍迷惑な大騒ぎ、、、かと思いきや。

今回はいつもの“ゾーン”から、また別の“ゾーン”に移る。
今までのひねくれてた自分を悔い改め、何やらしおらしく、口数少なく、大人しく。
そして、ただじっと縁談の話を果報は寝て待てと言わんばかりに。

しかし、その“ゾーン”もまた一瞬で、、、。
このけたたましい気分とテンションの上げ下げ。

プロローグの寸劇から、いつもの団子屋の団欒の件と続いて、結局喧嘩爆発して「出てけ!」「それを言っちゃあおしまいよ」「おにいちゃん!」と、また飛び出す。
このお馴染みのパターンが最初のわずかな時間でしっかり描かれ、いつものようにスッとこの世界に招き入れてくれる。

おいちゃんと、タコ社長の間の悪さ。
寅さんの現れるタイミングの悪さ、甚だしい勘違いと偏屈。
どれもがある意味“噛み合ってしまう”絶妙なお家芸、最高。

ここ数作は、飛び出した出先で登と偶然出くわすまでがセット。
前回は次の日の朝に登がしれっと出て行き、今回は寅さんがしれっと出ていく。
この旅先の再会に沸きながらもサラッと別れるやつ、なんか好き。

シレッと団子屋に現れる八千草薫、めちゃ美人。

今回は寅さん不在中に2階の部屋に下宿するのは、、、東大の教授。頭脳明晰、ガリ勉学者気質過ぎて団子屋連中、誰もついていけない、、、。

こんな人がいるところに最も帰ってきてはならない人物、寅さん、、、そう、戻ってくる。やっぱり絶妙なタイミングで戻ってくる。

「見かけない人がいるけど、さっきからたくあんボリボリ食ってるみたいだけど!」

絶対に分かり合えない世界の人間同士。
しかし、別世界過ぎて寅さんの方が押される。これがまたおかしくて堪らん。

団子屋の居候の学者先生に対して、居候よりも家にいないけど家族である寅さんのひがみ、、、からの、八千草薫。

学者教授の居候と一つ屋根の下での共同生活を我慢しながら、なんやかんやと旧知の八千草薫に入れ込んでいく、、、。
かと思えば、学者先生も八千草薫に、、、え?三角?キューピッド?ライバル?なにこのパターン。
寅さん、どういうスタンスなのか。

両極端の世界の男2人と、麗しい女性1人、そして男2人の下宿先であり、我が家である団子屋。

今回は出先ではなく、そんな地元柴又で繰り広げられるパターン。
やっぱり個人的にはこのパターンが一番落ち着く。
可愛らしくていつでも兄を心配するさくらが近くにいる。

大騒ぎで、喧嘩やら、恋敵やら、意地悪やら、お節介やら。
インテリ教授と“アンチ”インテリのフーテン。
世間話や言い合いですら言葉が通じない。

そして、フーテン、此度は千載一遇の最高のチャンスを逃す。
「そこが渡世人の辛いところ」ぢゃないよ、寅さん!
あんた、これで年貢を納められたじゃないか。

追えば逃げるし、追わなければ気付けない、他人のためならほいほい事を進めて言えるのに、来たかと思えば「良かった、来いよ」の一言とも言えない。

一体何なのか、この人は。


F:1871
M:1774
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