きゅうげん

式日-SHIKI-JITSU-のきゅうげんのレビュー・感想・評価

式日-SHIKI-JITSU-(2000年製作の映画)
4.2
仕事という虚構から逃げた男。
家族という現実から逃げた女。

エキセントリックな少女と中年の危機に陥る主人公の交流という“あるある”設定ですが、クールかつビビッドな画作りや、等身大で真摯な人物造形など、映画的な完成度はなかなか。
とくに藤谷文子演じる“彼女”が、単なるマニック・ピクシー・ドリーム・ガールに堕さず、一個人として自分と、そして母親と対峙してゆくドラマは痛切なものがあります。
ラストのB1三者面談ではこちらもボロ泣き……。
繊細で鋭敏な心と向き合った“彼女”が、日を追うごとに服装が落ち着いていったり、反動的に元に戻ってしまったり、あるいは自分そのものを捨て姉になってしまったり、アイデンティティ・クライシスの機微の克明な描写はとても素晴らしいです。


庵野秀明といえば、SF特撮・アニメ出身で『ヱヴァ』シリーズに代表されるような“セカイ系エディプス・コンプレックス作品”の原点にして頂点……みたいな作家論で語られることが多いですが、しかし旧ヱヴァ〜新ヱヴァの間・2000年前後の、女性にフォーカスしたアニメ・実写作品群を今こそ再評価すべきではないでしょうか?

原案小説こそあれど、本作は庵野作品のなかでも、地元を舞台に自身を投影する映像作家を登場させるなど、自己言及度はかなり高いように思います、が! 岩井俊二扮する“カントク”は庵野監督自身をただ照射した人物ではなく、このドラマを通して、被写体としてだけでなく人間としての“彼女”を撮るという、まさしく「交わらない2本のレール」のような距離感に自覚的な存在であることが大事なんだと思います。
『フェイブルマンズ』が記憶に新しいスピルバーグ監督と同様に、ファンが思っている以上に監督は自身の作家性みたいなものを、とっくのとうにに自覚して相対化しているってコトですかね。
(どちらかというと、セカイ系エディプス・コンプレックス的な素質は、鶴巻さんとか摩砂雪さんとかが継承してる感が……)


そんなテーマ性はもちろん、画も話も申し分ないクオリティの作品です。
特典映像には“カントク”(岩井俊二)『鉄道と少女』が、また予告には『ラブ&ポップ』の幻の海水浴エンドも収録されていて大満足。
はやくブルーレイ化してくれ〜〜〜。
てか製作が徳間康快&鈴木敏夫って、作品規模に対して布陣がコワすぎ……。