SANKOU

芙蓉鎮のSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

芙蓉鎮(1987年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

富める者はますます栄え、貧しい者はより貧しくなっていく。
格差社会が拡がってしまうのが資本主義の大きなデメリットだ。
では、富を公平に分配すれば人は幸せになれるのか。
理屈の上ではそうかもしれないが、人間の本質はそう単純なものではない。
結局平等な社会主義の国を作ろうとすれば、必ずそれを扇動する独裁者が生まれてしまう。
文化大革命の歴史を知らなければ理解できない部分もあったが、これは普遍的な人間
の欲深さを描いた作品でもあり、人間の幸せとは何かを深く考えさせられる映画でもあった。
舞台は1960年代の中国・湖南省の小さな町。気立てが良く器量よしのユーインは、夫と共に米豆腐の露店を営んでおり繁盛していた。
しかし国営食堂を営むグォシャンは夫婦のことを快く思っていなかった。
それは党員書紀のマングンや米配給主任のイェンシャンらが、ユーインを援助しているからである。
要するに彼女に対するやっかみである。
やがて反動分子を排除するための要因として権力を手に入れたグォシャンは、夫婦を不当に利益を手に入れたブルジョワ分子として吊るし上げてしまう。
ユーインは何とか非難の的から逃れようと1500元のお金をマングンに預ける。
が、マングンは保身のためにユーインが自分に金を預けたことを党に報告してしまう。
実はマングンはかつてユーインと恋人同士だったが、党の方針によって彼は彼女と別れる道を選んでしまった。
それだけこの小さなコミュニティでは党の力が絶対なのだが、彼女を二度も裏切ってしまったマングンの人としての情けなさに心が重くなった。
ユーインの夫はグォシャンに歯向かった為に殺されてしまう。
そして彼女は反動分子として常に肩身の狭い思いをして生きることになる。
彼女と同じように吊るし上げられたのは皆からウスノロと蔑まれてきたシューティエンだ。
ユーインは自分たちが反動分子として睨まれるきっかけを作ったとしてシューティエンのことを恨んでいた。
しかし互いに蔑まれ、協力して道の掃除をしながら生きていくうちに、恋心を抱くようになる。
それは反動分子同士としての許されない恋でもあった。
人は権力を持つとその人の本性が現れるのだと思う。
そしてその時の権力に追従しようとする者たちが必ず現れる。
しかし時代の変化によって権力はどう動くか分からない。
グォシャンも一時は同じように反動分子として吊るし上げられるが、再び返り咲き意のままに人を操るようになる。
本当の強さとは時代に流されずに、自分の信じる道をまっとうすることである。
ウスノロと蔑まれながらも、時代に流されなかったシューティエンは実はとても強い人間だったのだと思う。
彼はユーインと夫婦の契を交わすが、逮捕されてしまう。
ユーインはシューティエンの子を身籠るが、夫の不在のなかで彼女を助けたのはイェンシャンだった。
やがて文化大革命が終わるとユーインの汚名は晴らされる。
が、失った過去は戻らない。
それでも彼女は息子のグージュンと、開放されたシューティエンと共に幸せな生活を取り戻す。
かつてグォシャンの下で二人を迫害したワンは気が狂ってしまったらしく、「政治運動の始まりだ」と叫びながら町中を歩いていく。
そしてシューティエンもユーインも、いつかまた同じようなことが繰り返されるかもしれない不安を心に抱きながら、彼の姿を見守り続ける。
かなり重いストーリーだが、その中にも美しい感動のある物語だ。
ユーインがかつての夫との幸せな日々を思い出すシーンに心を打たれた。
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