Eike

ゾディアックのEikeのレビュー・感想・評価

ゾディアック(2006年製作の映画)
3.9
サイコ・スリラーのヒット作「セブン 」で知られるD・フィンチャー監督が再びシリアルキラーを真っ向から描いたサスペンス大作。

しかし、公開時、本作「ゾディアック」に「セブン」の再現を期待した観客の中にはちょっと戸惑った方も多かったのではないでしょうか。
「セブン」が猟奇犯罪と殺人者を生み出す都市の世紀末的混沌をサイコホラーとして描いたのに対して本作は1970年代初頭サンフランシスコの街を恐怖に叩き込んだシリアル・キラーの行動とその影に翻弄されて行く刑事やジャーナリストたちを冷徹な視線で描いており、作品としてのテイストはかなり異なります。
それは勿論、本作が「実話」に基づいているからですね。

フィクションである「セブン」と史実に基づいた本作とではアプローチが異なるのも当然なわけです。
興味深いのは「セブン」があれほど陰惨でホラーじみた印象でありながら、犯行そのものの描写は皆無に等しかったのに対し、本作ではゾディアックと名乗る犯罪者の凶行についてかなり具体的に再現して観客に提示している点です。
それは正に淡々と言う表現がふさわしく、それが故に一層犯人の冷酷さとこの犯罪の異常性が嫌でも伝わって来ます。

事件そのものは今日に至るまで未解決であり、結果としてどう転んでもすっきりとした結末の付けようがありません。
しかし長期に渡る事件の展開と犯人を追う複数の登場人物の視点を交えながら徐々に真相(と思われるもの)に近づいてゆく様は非常に腰が座った描写で実にスリリング。
マーク・ラファロとアンソニー・エドワード演じるSFPDの刑事たち、そして地元新聞社の花形記者ポール・エイブリー(ロバート・ダウニー・Jr)たちが一向に突破口を見いだせない真相追及の過程で次第に消耗して公私ともに生活が疲弊して行く様はかなり悲痛。
そして時間の経過に伴って事件と共にこれらのプレイヤー達が表舞台から姿を消した後、それまで彼等の背景で地味に描写されてきた新聞社のお抱え漫画家ロバート・グレイスミス(ジェイク・ギレンホール)が浮上して一人犯人像に迫る後半のサスペンスは非常に見応えあり。

娯楽サスペンス映画として分かりやすい物語を求める向きにはおススメしにくいですが、ドキュメンタリータッチの硬派サスペンスとしては間違いなく一級の完成度だと思います。
撮影に110日間をかけ、シナリオは200ページ近く合ったそうで上映時間が長くなることを嫌ってフィンチャー監督は演技陣に「早口で」台詞をしゃべるよう頼んだそうです(笑)。
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