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栄光のランナー 1936ベルリンのmhのレビュー・感想・評価

5.0
原題「RACE」には人種という意味もあってダブルミーミング。
1936年ベルリンオリンピックで四つの金メダルをアメリカに持ち帰った空前絶後のスプリンター、ジェシーオーエンスについてのヒューマンドラマ。
・ジェシーオーエンスの圧倒的才能。
・落ち目の白人コーチと組んだこと。
・1930年代半ばよりすでに社会問題となってるナチスドイツの人種政策。
・いっぽうで有色人種差別が激しい当時のアメリカ社会。
・参加をボイコットするかどうかの決戦投票でギリギリ勝利。
・アメリカからの視察団がゲッペルスに買収されたこと。(見返りはシュペーアが設計を手がける施設の建築工事受注)
・黒人社会からの同調圧力。(人種政策への抗議で世界記録保持者が参加しないとなるとアピール効果が絶大)
・ドイツ選手との交流。
これらに触れながらさくさく進む。問題提示から解決までまったくこじれない。たとえば100メートル走を数カット数秒で片付けてしまう。このあたりスローやBGMでもったいつけるタイプのエンタメ映画への批判も交じってそう。
なかでもレニリーフェンシュタール関連のエピソードが面白い。
登場の時点ではゲッペルスと仲が良く、「オリンピア」(邦題「民族の祭典」「美の祭典」)を撮影していくなかで、袂を分かつという史実通りの展開。
英語を操る有能女性監督という役どころでかなり痛快なキャラになってる。レニのことを知らなくても楽しめる。
「オリンピア」序盤の聖火リレーのシークエンスをオリンピックがはじまる前の段階でヒトラーをはじめとしたナチ党要人の前で見せるシーンがあったけど、これも史実通りだったんだろうね。
時代考証が正確なのでかなりの信頼がおけるストーリーになっている。このあたりの作り――誠実に作ればドラマ性が高まるという構成も、ありふれたエンタメ映画に対するレスポンスなのかもしれない。
政府が女性を寝室に送るというナチスドイツの不気味な動きも語られてたけど、レーベンスボルンという文言はなかった。
ハリウッドが絡んでないアメリカの歴史ものという点もこの映画の特筆すべきことかもしれない。
この手の映画にありがちなホワイトスプレイニングに陥ってない理由はそのあたりにもあるのかも。
ナチスドイツの人種政策と、アメリカの黒人差別を並べて見せた上で、そういったこととは無縁に生きてる(ように見える)女性という見せ方も鮮やかだった。
あまり見られてないようだけど、とんでもなく面白かったです。

メモ
コーチのラリー・スナイダーが出場する予定だった1924パリオリンピックで活躍したイギリス代表選手が「炎のランナー」「最後のランナー」の主人公エリックリデルとのこと。
mh

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