初回鑑賞:2022/08/03
初回スコア:3.8
・ジャンル
インターネット黎明期、徐々に一般へも普及し出した頃
植物販売店で働く女性ミチと大学生の川島の周囲ではそれぞれ奇妙な事が起こり始めていた
職場に姿を見せなくなっていたミチの同僚田口は家を訪ねると突如として首吊り自殺
ネット接続をした川島のPCには見知らぬ人々の部屋の映像と共に「幽霊に会いたいですか」というメッセージが…
やがて奇妙な現象は広がりを見せ始めミチの周囲からは次々に人が消え、川島は異様な人影を目にする様になっていく
人が消えると共に残される黒い染み、不可解な“あかずの間”の存在…
どうやら全ては死後の世界がキャパオーバーを起こした事に起因している様なのだが…
・感想
Jホラー全盛期に数々の名作を世に送り出した名匠、黒沢清監督の代表作の1つ
インターネットと死後の世界を繋ぐ“回路”の存在を通して人間社会や死生観を描き出した異色の内容となっており、SNSが一般化した現在を予期した様な内容と一部では言われている
YouTubeで2週間の期間限定配信がされていたので再鑑賞
まだホラー映画にそこまで触れていなかった頃に1度観て以来の鑑賞で色々観てきた今観るとより一層深みや恐怖がじわじわと伝わってきて改めて名作だなぁ、と
黒沢清監督らしい全体を通して貫かれる薄暗くドライで朧げな色彩、それをより強調する寂れたロケーションの数々
それらを背景に赤、白、黒といった生と死に纏わる象徴を印象的に扱いながら描かれる世界観は圧巻
赤は生への執着、白は死者に招かれ揺れている状態、黒は死者に“影”や“染み”として現世に“固定”される前兆
そうした形で描かれるストーリーはジャンプスケアとは無縁な静かに心を蝕んでいく不穏な空気を終始放っている
それでいて黒沢清監督らしい良さとして変に芝居掛かったいかにも怖がらせようという語り口は取られず特に主人公2人の片割れ川島を演じた加藤晴彦のソレは軽薄であまり頭の良くないどこにでもいそうな若者という物を生々しく感じさせるカジュアルな物
ミチを演じる麻生久美子もまた悪く言えばまだ拙い演技なんだけどそれが逆にリアルさを後押ししている
彼女の同僚、順子もそうだった
そして黒沢清監督ならではの霊の描き方
影と生身を行き来しながら存在し頼りない動きでただそこに佇む
彼らは自分達の“エリア”にこれ以上、霊を入れまいと生者達を染みや影へと変異させ“あかずの間”に固定
この行動がさながらPC上のフォルダへ閉じ込める様で秀逸
加えて人が消えていった現世の街並みが静かに崩壊していく光景もコントロールする生者の不在でもう一つのあの世と化した様に見え恐ろしい
これだけ恐怖や絶望、孤独に満ちた内容でありながら本作の着地は意外にもポジティブ
死は誰にもやがて訪れるが「行ける所まで行く」しかない
人と人は近づき過ぎれば死を招く事もあるが寄り添い合うしかない
肥大した人間の知能がもたらすネガティヴな思考を社会的生物として生きた存在の原始に立ち返り呑まれる事を拒み突き進む
それが屍という黒い海の上であっても…
積極的とも消極的とも取れるこのメッセージはSNSが一般化した現代にも確かに通ずる
作中で春江は画面に映る人々を「霊と変わらない」と表現している
これはまさにそういう捉え方が出来る
それを情に訴えかけるのではなく1つの現実として示すのが監督の作家性を強烈に感じさせる
そしてその現実は確固たる何かというより揺らぎのある物でそこがまた不定形な霊の姿や動きとも重なっていく
生と死、実存と仮想、孤独と社会
二面性を示すそれぞれの概念の間にある壁はキャパオーバーを起こせば確かに崩れ得る
その事実を時が経っても普遍的に響く形で描いた本作は真の意味でタイムレスな作品であると言えると思う
改めて「CURE」や「降霊」、「叫」など監督の作品を見返していきたいなぁと改めて感じた