OASIS

吸血鬼のOASISのネタバレレビュー・内容・結末

吸血鬼(1932年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

吸血鬼伝説が残るとある村にやって来た青年が、その異様な村の雰囲気と人々に徐々に恐怖を抱いていくという話。
デンマークの巨匠カール・テオドール・ドライヤー監督作品。

「邪悪なものについて研究するうち、現実と非現実の区別がつかなくなっていった」という青年アランは、当てのない旅の最中にクルタンピエールという鄙びた小さな村に辿り着く。
夜が更け始めると、人々の声や表情から異様な雰囲気が漂い始め...。
不安と焦り、そして恐怖が渾然一体となって押し寄せて来る映像表現に掌はしとどに濡れる。
乾いた風の音、壁に映る人の影、現実か非現実か区別出来ないほどのリアルさと浮遊感が漂う幻惑的な世界。

子供の声、影を追って一軒の館に辿り着いた青年は老人と二人の娘、使用人が住む館へとやって来る。
「生前に悪行ばかりしたせいで成仏出来ない死者が、満月の夜に棺の中から甦る」と語られる吸血鬼の存在。
一般的なヴァンパイアものとは違い、牙をひん剥いて襲いかかり血飛沫を浴びるというようなスプラッタ描写は皆無で、寧ろどいつが吸血鬼なのか分からないレベルの人間社会への溶け込み具合。
子供や若者の生き血を狙う吸血鬼が、その正体を追う青年から姿を隠し続けるという逆の構図が間抜けっぽくもあり。

現実か非現実か、青年の見た棺の中からの風景は寒気がするほど残酷で、しかしその寒さすら感じないほどの感情の無さが境目を曖昧にする。
カメラが映し出す映像は、画面の奥に続く深淵を覗き込むように、光すら飲み込む暗闇、そして影の何処までも暗くて黒く、吸い込まれそうな空間を作り出していた。
OASIS

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