まぬままおま

WANDA/ワンダのまぬままおまのネタバレレビュー・内容・結末

WANDA/ワンダ(1970年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

バーバラ・ローデンが主役と監督を務める本作。

なんだこの映画は…こんな女性像みたことない。

炭鉱勤めの夫の妻であるワンダ。彼女は家事をしっかりこなす妻でもなければ、子ども思いの母でもない。仕事ができるキャリア・ウーマンかと言えばそうでもなく単純労働さえできない。彼女はいつまでも寝てて、カーラーを髪にまいて自らを着飾ることしか興味がない女性である。良妻賢母の否定。労働者階級の女性像の否定。離婚調停で「負ける」のも当たり前だ。

そんな彼女は住処をなくし、財産もなくしー映画館でなくすことがなんとも皮肉ーさまよう。そしてトイレのために駆け寄ったバーをきっかけに逃亡劇が始まる。

この逃亡劇もよくわからない。彼女が主体的に犯罪を行ったわけではないし、バーの店主の倒れている様は何とも滑稽だ。けれど逃亡劇に巻き込まれる。男と逃げる。

そうなのだ。彼女が主体性を全く発揮しないのだ。彼女は何者かになるために主体的に行動するわけではない。あるとしたら男と寝ることぐらいだ。逃亡劇で彼女に変化があるわけでもない。ラストの銀行強盗もそうだ。彼女は主体的に共犯になったかに思えるけれど、彼女の運転する車は現場にさえたどり着けない。

彼女は犯罪を通しても何者にもなれなかった。妻にも母にも労働者にも犯罪者にも。なれるとしたら男との性的なパートナーのみなのか。この何者にもなれない様は女性がアイデンティティーを獲得する困難さを物語っているような気がする。

単純なアイデンティティーの獲得の物語にさせないラディカルさ。だからこそ今みても全く色褪せない傑作であるし、鋭く問題を突く。私がワンダをどうこうすることは不能だし、暴力だ。だからまず私は男性性を解体することから始めたい。

別記
劇伴がないし、劇的な劇が展開されないからドキュメンタリーと錯覚してしまう。印象的なのはズーム・アップ。このカメラの動きは、なんかドキュメンタリー性を帯びさせるんですよね。とても不思議だ。