ワンコ

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドアのワンコのレビュー・感想・評価

5.0
【希望】

先ごろ4Kレストア版が公開された「テルマ・アンド・ルイーズ」が女性版アメリカン・ニューシネマだとすれば、この「ノッキン・オン・ヘヴンズ・ドア」は、差し詰めアメリカン・ニューシネマがドイツという異国で結実・昇華したような作品と言って良いんじゃないかと思う。そして、「明日に向かって撃て」や「イージー☆ライダー」というより、「スケアクロウ」の延長線にある感じだ。

それほど、この作品は瑞々しく、閉塞感の先には、希望があるのだと言っているような気がする。

この作品が制作された1997年は、東西ドイツが統合されてから7年経ち、マルクに代わる統一通貨ユーロの導入も2年後に迫っていた。

ただ、統一ドイツでは格差がなくなることはなかった。
旧東ドイツは旧ソ連衛星国の中ではいち早く統合ドイツとしてEU(欧州連合)にも加盟したものの、豊かさを実感できる旧東ドイツの人々は非常に少なかったのだ。
他の旧ソ連衛星国のEU加盟が本格化するのは、2000年代半ばからだ。
しかし、2010年代に入っても、こうした格差は残り、それをテーマにしたのが映画「希望の灯り」だったように思う。

海を見たことがないマーチンとルディは、そんな抑圧された中で生まれ育った旧東ドイツの若者のメタファーなんじゃないか。

抜け出すことが出来ない閉塞感。
迫る命の灯火が消える瞬間。

自暴自棄のようだが、果たして彼らは海を見れるのか。

最後、マーチンとルディを見逃してやるルトガー・ハウワー演じるギャングのボス・カーチスの言葉「海と沈む太陽が溶け込む」は、いつか格差や分断はなくなるというような希望を示唆していたように思える。

ただ、映画は、曇天で、波の荒い海の砂浜で……終わる。

優しくも、もしかしたら、辿り着く先は決して楽な場所じゃないかもしれないと言っているようにも思える。

とても笑える場面やユーモアも織り込みながら、ものすごく示唆的で秀逸な作品だと思う。

ボブ・ディランの曲も沁みる。

このリバイバル上映の機会にぜひ。
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