垂直落下式サミング

仮面ライダーZOの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

仮面ライダーZO(1992年製作の映画)
4.5
雨宮慶太監督。短い尺のなかにライダーのなん足るかが全部詰まっている快作。仮面ライダー20周年記念作品の劇場版であり、往年の特撮作品のリアル化新解釈路線の走りでもある。
敵の怪人が気持ち悪い。天野喜孝の神秘的な雰囲気にギーガーの卑猥さをまぶしたようなデザインで、80年代と90年代をつないでいる。質感が嫌にヌメヌメしている蝙蝠男、常に口からシャーッと息を吐いている蜘蛛女、なんかグロテスクだし、気まずい卑猥さで、あんまり積極的に子供の目には入れたくないヴィジュアル。こんなもん子供が真剣にみてたら、気持ち悪いのみるのやめなさいっ!って画面消しちゃいそう。
そんなキモい怪人と戦う善玉の仮面ライダーは、超シンプルな原点回帰のバッタスタイル。ボディは深緑色をベースに、身体には金色のラインが走っており、腰に変身ベルトはない。
特筆すべきは、変身前から既に仕上がっている主人公の安心感。革ジャン腕まくりでスラッと足の長いジーパンに指出しグローブのスタイルを完璧に着こなす。髪の毛も黒々として太眉の下には強い意思を持った眼力が敵を見据える。これが我らの仮面ライダーだ!という説得力がパナイ!
出来上がった大人の男の人がライダーでいてくれるおかげで、この悲惨な世界でもヒーローが人類の希望足り得る。平成ライダーみたいな甘っちょろい若造だったら、本作のクリーチャーたちはちょっと手に負えないと思う。
頑張れって声援をおくるよりも、黙って両手を合わせたくなるような有り難さ。彼への思いは、絵空事のなかのヒーローへの憧れじゃなくて、現実の消防士とか警察官とか自衛官に向ける尊敬に近い。グロテスクな悲惨さが波及していく世界の水際で、この男が我らの平穏を身一つで守ってくれているのだ。
平成のオダギリジョー以降の主役は線の細いイケメンになっていくけれど、平成初期にはこんなカッコいい男の人がヒーロー役をやっていたんだ。絶対いい年の取り方する顔だもんな。ホントかっこいい。
雨宮監督作品のなかでも、ストーリー・デザインともに高水準で、代表作『牙狼』に直結するような原点といえる。救いようがないようなベタ塗りの黒い世界のなかに、華々しいヒーローがいてくれることで、こちらの気持ちをだいぶ楽にしてくれている。そのバランス感覚は、この映画で掴んだのだと思う。