カラン

愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像のカランのレビュー・感想・評価

4.5
フランシス・ベーコン(1909-1992)はイギリスの画家で、人体をアナモルフォーズし、フォルムを成すプロセスなのか、フォルムが破壊されるプロセスなのか、とにかく目には見えない力学とその悪魔的なエネルギーを描いた。16世紀イギリスの哲学者と同姓同名であるが、なんと子孫であるらしい。経験論の草分けとなり、「知は力なり」って言ったとされるあの人ね。ギャップ萌えするな。

デレク・ジャコビがそのベーコン役である。喋っているのは見たことがないが、雰囲気がかなり似ており、最初は本人なのかと錯視した。また、007になる10年ほど前のダニエル・クレイグが、ベーコンの恋人役である。裸でデレク・ジャコビと絡まるし、風呂場での錯乱の際には全部がしっかり映っている。デレク・ジャーマンの『ラスト・オブ・イングランド』(1987)の日本語版はぼかしで修正されていたが、本作はBBCなのでイギリスのNHKみたいなものである。日本の代理店は権威主義なのだろうか。


☆テレビ映画?

観始めて、なんかおかしいなと。本作は各種の映画祭に出品されたものだが、テレビ放送用の規格のような風合いである。それとも、元は普通の映画なのに、DVDにする際にテレピ放送の規格で制作してしまったのか、何かがおかしい。とてももったいない。観客もどうせ分からないのだからと、いい加減にしていると、衰退を加速させることになる。他の芸術に比べて、映画って金がかかるから、皆が分かって正しく評価できないといかんのだ。だからね〜、映画界にとってFilmarksみたいのは、本当は本当にとても重要なんだけど、、、


☆ベーコンをリクリエイト

ダニエル・クレイグが演じた、ベーコンのホモの恋人が麻薬で身を滅ぼすというエピソードは、「同じ性的趣向」である監督を務めたジョン・メイベリ(John Maybury)にとっては、パートナーを同じ薬物中毒で亡くしたことがあったので、個人的な思い入れが深いらしく、フランシス・ベーコンが60年台初頭にこのジョージ・ダイアーと出逢い、70年代の黒い三連画(the Black Triptychs)に結実する時期を、半ばリアル、半ばフィクションとして描こうとする。ベーコンには何人かよく知られた男の恋人がいた。ジョージはその中の1人に過ぎない。

非常に興味深かったのは、ベーコンとジョージの気狂いじみた関係というよりも、その架空の物語の中で役者たちをセットに配置して、アナモルフォーズやディゾルブ等の映画のショットによって、フランシス・ベーコンのタブローをリクリエイトしているところである。芸術のこの種のトレースの仕方は、模倣の域を出ないわけだが、ジョン・メイベリは相当に研究したものと思われるし、映画のショットとして卓越している。この素性のはっきりしない日本語版DVDには、ジョン・メイベリのアートワークの特典映像が付いている。この映画のフィルムを紙焼きしたものを、ペイントしたり、破いたり、スクラッチしたり、燃やしたり、とベーコン風に手を加えたものだが、映画本編のショットがやはり勝るのだ。

何度もめくったベーコンの画集を今一度見返すよりも、面白いのではないか。一度でいいからベーコン単体の展示を見たいと気が高ぶった。

採光はかなり気をつかっているようだが、もうちょっとカラーグレーディングをやった方が良かったか。金なのかな。セット内の美術はかなり立派。特にあのアトリエ。ただ、移動がない。ほぼゼロなので、セットの空間性を無限にはできていない。画家だからね、移動はちょっとなのかもしれないが、セットごとになっちゃうとテレビドラマみたいだよね。セットが映画空間に着地できていないのはDVDの再生方式のせいかもしれないが。



サウンドは坂本龍一。ノイズ系としては目新しさはさほどにないが、決して悪くない。

画質は1998年の映画としては良くない。実に残念だ。ちゃんとリマスターしたBlu-rayだしてくれろ。


レンタルDVD。55円宅配GEO、20分の12。
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