ENDO

妻のENDOのレビュー・感想・評価

(1953年製作の映画)
4.2
今見直してわかるのは、出歯の錆や布巾の数など早苗に台所の状態を批判された三枝子がキレて絶交するシーンの絶妙なやり取り。髪を下ろした三枝子は珍しくだらしなくて爛れた艶がある。謙には取り付く島がなくて可笑しい。早苗の土産であるヒラメは捌かれる人を失うが、起き抜けの連太郎が漁師のバイト経験者だったので、ぶつ切りの刺身になる。それを肴に酩酊した連太郎は三浦環『恋はやさしい野辺の花よ』を気持ちよく口ずさむ。笑える。浮気をバラしたのは連太郎なのに!その人間的な悪びれなさもいい。

積極的な丹阿弥さんはあざといけど素敵。珍しく華のあるバー勤めの中北さんがカッコいい。「愛し合う人間の意志が強ければ、結婚という契約なんていらない!」観念的な持論を展開する若き新珠さん。男は甲斐性なさすぎる。並んで歩く2人の姿の緊張感。三枝子の決死の直談判に丹阿弥さんは逃げ出すしかない!ロマンスは一瞬で吹き飛ぶ!新聞には浮気された妻の自殺がひっそりと掲載されている。夫婦が決定的に断絶したとわかって尚夫婦関係を取り繕って生きる。冒頭より悪化して終わるとは!!怖い!

第1回 2019/3/14
林芙美子原作は辛い。モノローグに始まりモノローグに終わる。狂言回しの売れない絵描き三國連太郎が癒し。フーテンの皮肉屋だが緩衝材に。少女の新珠三千代への眼差しも良い。所帯染みた妻を高峰三枝子が演じる。丹阿弥谷津子演じる愛人のソフィスケートされた趣味に蹌踉めくのはわかる。メザシとサンドウィッチではね。大阪での密会は美しい。煎餅の音や箸を楊枝代わりにしてお茶でブクブク嗽された日にゃ恋も冷めてしまう。妻は夫に興味がなく愛人の存在も妻は全く青天の霹靂という感じで。その後直接対峙しての徒歩→茶店→電車通過の演出。妻は全てを白黒はっきりさせようとするが旦那は一度も向き合おうとしないクズ。妻の父親も妻の唯一の親友の高杉早苗もぶっち切って突き進む。愛人と直接対峙。しかし最後は籠の中。借家の大家という主人公夫婦の設定も秀逸。まず中北千枝子に対し復員でまるで役立たずの旦那は為すすべなく帰郷する。次に越して来た2号さんと家具屋の痴情。この裏で流れる物語は主人公夫婦の裏返しで、正妻の自殺は新聞で知らされる。結果的に愛人の心づもりは殆ど分からず、オープニングとエンディングのぼんやりとした不安はさらに拡大し日常に帰っていくのだった。高杉早苗のチャキチャキした振る舞いに夫婦共々がタジタジになり、出刃を持って立ち竦む上原謙の滑稽さ。笑うしかない。あんなにバランスの取れた親友との関係を切ってしまうのは狂気の沙汰。家庭劇というホラーでした。丹阿弥さんの住むのが高円寺。林芙美子はかつて堀ノ内に居を構えていたらしい。近所!銀座・らんぶるも往時を思わせる。
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