一

妻の一のレビュー・感想・評価

(1953年製作の映画)
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夫婦倦怠ものとして、いくとこまでいっている。『めし』『驟雨』なんかは多少なりともホッとさせられる結末が用意されてるが、今回は最後の最後まで妻と夫の心は接近しない。向き合おうともしない。そして別れもしない。冒頭と呼応する突き放したモノローグで「終」。いやいや…でもたしかにこの夫婦関係は終わっている。寒々しいにも程がある。上原謙は相変わらず顔はいいけど意思のないダメ夫で、妻・高峰三枝子がすごい。せんべいバリボリ、箸を楊枝がわりに口に突っ込んでお茶でブクブクうがい。やりすぎ。一方、上原の浮気相手の丹阿弥谷津子は絵と音楽が好きな文化系の上品な未亡人。たしかに素敵なのだ。家庭に入って10年の高峰は、下宿人や近親者以外との関わりもないし、「なんでも話せる友達なんていらない」と人間不信状態。それでも自立のできない女は生きるために家庭にしがみつくしかない。2階に下宿していた中北千枝子はバーで働いて甲斐性のない無職の夫を養い、愛想が尽きたら手切れ金まで出してスッパリ別れてみせる。 このたいそう意地悪な描き分けは、高峰に対する同情を拒否しているように思える。
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