櫻イミト

燃えつきた地図の櫻イミトのレビュー・感想・評価

燃えつきた地図(1968年製作の映画)
4.5
勅使河原宏監督×安倍公房原作脚本の「おとし穴」(1962)「砂の女」(1963)「他人の顔」(1966)に続く最後の劇場公開映画。音楽は武満徹。タイトルデザイン粟津潔。

【あらすじ】
興信所に努める探偵(勝新太郎)は失踪した夫を探してほしいとの依頼を受ける。誰もが非協力的でよそよそしく、依頼人(市原悦子)でさえも本当に夫の行方を知りたいのか判然としない。突然現れた依頼人の弟はヤクザの同性愛者だったが、飯場での暴動に巻き込まれ殺される。失踪者の同僚(渥美清)は、失踪者の性癖を明かしたうえで探偵をヌードスタジオに誘いこむ。失踪者との関係でずっとマークしていた喫茶店「椿」は実は白タクの配車事務所で。。。

前二作と同様、社会からの失踪者をモチーフに人間の実存の危うさを表そうとしていた。今回の舞台は東京であり、人間の密集した都会の中での孤独と、主人公が人生を歩くための “地図”を失っていく様が描かれている。いびつかつシャープな画角が続出する “アートな探偵映画”といった風味で、個人的には勅使河原×安倍公房コンビの作品で最も好みだった。

バス屋台が並ぶ飯場、ヌードスタジオ、白タク配車事務所など、60年代末期東京の裏社会が胡散くさいリアリティを伴って描写され辰巳ヨシヒロの劇画を連想。対して失踪者を探すうちに自らが失踪者になる物語は「ブレードランナー」(1982)と接続する。

勝新太郎と渥美清という真逆なキャラクターのツーショットも強烈な印象。勝新は本作で新境地を見せ、渥美は翌年の「男はつらいよ」(1969)から放浪者・寅さんを演じることになる。

邦画では他に類を見ないハードな不条理エンターテイメント。1968東京の風景も楽しめる大好物の一本だった。
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