くりふ

猿の惑星のくりふのレビュー・感想・評価

猿の惑星(1968年製作の映画)
4.0
【神は自分に似せて猿を創った】

リメイク最新作『ライジング』をみてなんか違うぞと思い、久しぶりにオリジナルをみ直して中和しました。やっぱり私はこちらの方が断然面白く、これ一本でよかったと思います。

この映画はリアルな外面を持つナンセンスな寓話でしょう。いわば見事な一発芸。サーガにしちゃうとボロが出てくる。

アメリカで初公開されたのは1968年2月。アポロ7号が初めて有人宇宙飛行を成功させるのがこの年の10月ですが、それまでは、アポロ1号の事故で飛行士が全員死亡して以来、ずっと無人でのミッションでした。

一方、前年に『俺たちに明日はない』が公開されており、アメリカン・ニューシネマが始まった時期にも当たるんですね。

本作は、能天気なバカバカしさの一方で絶望を背負っていますが、こんな時代背景と無縁ではないと思います。

主人公テイラーも、チャールトン・ヘストンを配しながら典型的アメリカン・ヒーローにしていないのが妙味。根がオレ様なんですよね。同行した女性飛行士への想いや、原始人を見つけた時の台詞などに人格が覗く。彼に懐く原始女は理想の彼女だったでしょう(笑)。

後に、猿たちに向ける銃の扱いがすごく様になっていて、さすが後の全米ライフル協会長と感心しました。

脚本には『トワイライト・ゾーン』ロッド・サーリングの特質が良く出ていますが、それをリライトしたマイケル・ウィルソンは赤狩りに遭った人だそうですね。テイラーが猿に囲まれ吊し上げられる様は生々しく切ないですが、体験が効いたのか。

また、美熟女猿(笑)ジーラを演じるキム・ハンターさんも赤狩り対象者で、本作の前は暫く仕事を干されていたとか。理不尽な猿裁判でのジーラの叫びには、演者の叫びも混じっていたのかも。

あと、キリスト教へのアイロニーがとても愉快。猿にもファンダメンタリストがいて、「神が自分に似せて猿を創った」と書かれた聖典を信奉し、進化論を否定するわけですが…人間と同じ(笑)。

が、ちょっと考えさせられるのは、これが愚かな歴史を繰り返させないための、意図的洗脳であるところ。平和のための盲信なんですよね。この点は人間より進化しているのかも?(苦笑)

ちなみに1967~68年は、テネシー州~アーカンソー州で、進化論を教えることを禁ずる法律は違憲、となる動きが起こっています。これはまた、アメリカ政府の宇宙政策を受けた科学教育の見直し、でもあるようです(この辺Wiki受け売り)。

…なんか色々とつながってきますね。

猿メイクは今み直しても見事ですね。リメイク版シーザーがいくら精緻なCGで作られてもこの「面白さ」には勝てない。

演じる役者さんの「猿まね」が笑っちゃうほど巧い。バカバカしいとわかっていながら楽しむ余裕も感じます。真面目な裁判の途中で「見ざる聞かざる言わざる」を真面目に演じたりね。リメイク版が好きになれない理由の一つが、こんなユーモアが一切ないところ。

しかし、本作最大の弱点はやっぱり気になっちゃいましたけどね。それがラストの伏線にもなっているから大きい。

映画のウソ、として見逃したいところですが…他に手はなかったのかなあ。これに対するケアがないと、テイラーが本物のバカに見えちゃうんですよね。猿から【聞いた】段階で気づけよと!(笑) 満点付けられないのはこれがあるからです。

その他、細部の再発見なども色々ありましたが、このへんで。

改めて引いてみると、本作は60年代と70年代の橋渡しも担っていたんだなあ、と、その重要性に気づいたりもします。リメイク版の方はもう、殆ど期待していませんが、少しでも本作の「面白さ」に近づけるといいな、とは思いますね。

<2015.3.31記>
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