真一

JSAの真一のレビュー・感想・評価

JSA(2000年製作の映画)
4.1
国家権力が、いかに
イデオロギーや忠誠を
国民に強制しようとも、
平和を求める良心まで
奪うことはできない―。

そんなメッセージが
込められた名作だ。
約10年ぶりに再鑑賞し、
そう実感した。

平和って、
世界平和への決意が
なければ目指せないという
代物じゃない。
互いの顔を見て語り合い、
理解しあう。
そんな些細な行動の中に、
平和は宿る。
韓国軍兵士の主人公
スヒョク(イ・ビョンホン)は
無意識のうちに
平和を希求した一人だ。

短気だが筋を通すタイプの
スヒョクは、地雷を踏んで
絶体絶命の危機に陥っている
自分を助けてくれた北朝鮮兵士
ギョンピル(ソン・ガンホ)に
恩義を感じる。
そして、韓国陣地からみて
橋向かいにある北朝鮮詰め所に
ギョンピルを訪ねるという
無鉄砲な行動に出る。

膝を交えて談笑するうちに
湧き出る友情。その友情は、
見回りの北朝鮮将校が
詰め所に踏み込み銃撃戦に
発展した時でさえ、
揺るがなかった。

どんなに
「北朝鮮と戦え」
「韓国をやっつけろ」
と命令されても、
共に酒を酌み交わし、
笑い合った相手を
意図して射殺するなんて、
できるわけがない。

そう、できるわけない。
血の通った人間なんだよ。
私たちは。

また本作品は、
どんなに友情を育もうとも、
殺傷兵器を携えて
互いに向き合えば、
誰も望まぬ不幸な事態を
招いてしまうと訴える。

ギョンピルと談笑していた
スヒョクは、北朝鮮将校と
鉢合わせして戦時という現実に
引き戻された瞬間、
目にもとまらぬ速さで
けん銃を構えた。
そして1発の銃声をきっかけに、
歯止めなき撃ち合いに突入し、
阿鼻叫喚地獄を演じてしまった。

抑止力として保有していたはずの
殺傷兵器なのに、何らかのボタンの
かけ違いで思わず発動してしまう―。
そうした軍事上のリスクが、
日本を含む東アジアに
まん延しているのは明らかだ。

現に韓国と米国は
北朝鮮の目と鼻の先で、
最新兵器を投入しての
大規模軍事演習を繰り返す。

一方の北朝鮮は
弾道ミサイル発射で
米韓をけん制する。
いつ偶発的な衝突が起きても
おかしくない状況だ。

1度引き金を引いてしまったら、
本作品における北朝鮮詰め所での
銃撃戦のごとく、
コントロール不能の状態に
東アジアは陥るだろう。

日本と中国も同じだ。
日本は米国の覇権を守ろうと、
日米同盟強化にまい進する。
中国は覇権掌握へ
軍拡路線を爆走する。
これを軍拡競争と呼ばずに、
何と呼ぼうか。

罪の意識に耐えきれず、
けん銃自殺したスヒョクの最期は、
あまりに悲しい。
だが、見方を変えれば、
それはスヒョクが
人間の心を持っていた
証しと言えると思う。

「北朝鮮の友の一人を
撃ち殺してしまった自分に、
生きる資格はない」
と言わんばかりの
スヒョクの激しい後悔の念に、
人間が人間であるゆえんを
見た気がする。

偏見と思い込みを捨てて、
みんなで語り合おう。
肩肘張らずに力を抜いて、
共に楽に生きていこう。
それが平和への近道だよ。
きっと。

「JSA」から、こんな
メッセージを受け取った
気がします。
真一

真一