えいがドゥロヴァウ

ファニーとアレクサンデルのえいがドゥロヴァウのレビュー・感想・評価

ファニーとアレクサンデル(1982年製作の映画)
4.5
「どんなこともあり得る
何でも起こり得る
時間にも空間にも縛られず
想像の力は色あせた現実から
美しい模様の布を紡ぎ出すのだ」

やっと観られました
映画は中断せずに鑑賞することを自分自身に義務づけていまして
311分の尺は、やはりなかなかどうして
相応の覚悟を要求いたします

イングマール・ベルイマンが自身の遺作と定め
彼がそれまでに扱ってきたあらゆるテーマを詰め込んだ渾身の作品とあらば
映画好きを自認する立場としては一度はお目にかからねばと思っていました
なので鑑賞できてよかった
本当によかった
(ベルイマンは本作の20年後に『サラバンド』を監督しているので、遺作とはなりませんでした)

演劇の劇場を運営して財を成したエクダール家の一族を中心に描いた家族についての物語で
そのエピック性は『ゴッド・ファーザー』やヴィスコンティの『山猫』などと通底していますが(何しろ長尺ですし!)
本作はエクダール家の長男で劇場主であるオスカルの息子アレクサンデルとその妹のファニーの視点で描かれています

5部構成
プロローグ
第1部:エクダール家のクリスマス
第2部:幽霊
第3部:崩壊
第4部:夏の出来事
第5部:悪魔たち
エピローグ

第1部で家族やその使用人たちの人物像をクリスマスの祝賀的なムードとともに丹念に描き
第2部でのオスカルの死、そして第3部でのオスカルの妻エスターの再婚と物語が進むにつれて
徐々に暗雲が立ち込めてゆきます
抑圧的な宗教の欺瞞に対する視座や
神への懐疑と
非常にベルイマンらしいテーマが提示されますが
本作でも見受けられる家族の団欒や結束に対する信頼というのもまた大きな魅力で
心がとても暖まります
やはり何とも贅沢な映画ですね
しっとりと丁寧に尺を使用していますが
決して冗長にならず
鑑賞後も驚くほど疲労感がありませんでした
ベルイマンは多くの映画監督に影響を与えた大巨匠ということで身構えてしまうかもしれませんが
難解さは意外と少なく、むしろめちゃくちゃ観やすいです

アレクサンデルの大きくて澄んだ瞳は『ミツバチのささやき』のアンナを連想せずにはいられませんが
彼の魅力は何といってもその賢さと向こうっ気の強さ
「本当の神様なら僕なんかに怒るはずがない、僕に怒るならそれはウソの神様だ」なんて!
あどけない顔して結構な毒を吐くのね〜なんて
ステキな台詞もたくさん
三男のグスタヴのキャラクターが非常に愛嬌があり、多くの笑いをもたらしてくれます

惜しむらくは
エスターの再婚相手があまりにも胡散臭くて
未亡人の寂しさにつけ込む甘言にそそのかされたとて
ちょっと見る目がなさすぎるんじゃないかしら…と(笑)
屋敷の住人や使用人の陰気臭さもヤバすぎて笑っちゃいました
暖色なエクダール家とのこれでもかという対比