ワシ

叫のワシのネタバレレビュー・内容・結末

(2006年製作の映画)
2.5

このレビューはネタバレを含みます

【前書き】
気の向くままにJホラー作品を観ていく。
今回は2007年公開の『叫』。
この作品も東宝の“Jホラーシアター”の1本で、監督を黒沢清が務めている。

【雑感】
遺留品や指紋は、主人公の刑事・吉岡が殺人に関与したことを示している。
しかし当の吉岡は、こんな事件に関わった覚えなんて無いし、被害者の女性のことも全く知らない。
これはどういうことなのか?…といった具合に、ミステリー色の強い始まり。

やがて主人公の元に赤い服の女幽霊が現れ始め、物語はミステリーと心霊ホラーという2つの側面から描かれていく。
最終的に物語は、ミステリー的にも心霊ホラー的にも、一応ケリがつく形で終わる。
話にケリがついたからといって、素直に大団円となるはずもなく、作中に散在する示唆的な表現が、ノドに引っかかった魚の小骨のような違和感として残った。

そんな違和感から「黒沢清監督らしい作品」だと思ったし、それをひと言で表せば「意味がよくわからん」ということ。
しかし意味がよくわからないなりに「何か不可解なものを観た体験」として、一定の充足感は味わえた。

それはやはり、魅力やパワーのある作品だからこそ成せるワザなのかも知れない。
知らんけど。
とりあえず今回はこんな感じでした。

【後書き】
さて、この物語の裏で示唆されていた事とは何なんだろう?
都合よく辻褄合わせしながら、当て推量で考えてみる。

この作品の登場人物たちの背景に広がるのは、埋立地や荒れ地、そして人工的な建造物といった殺風景な風景ばかり。
主人公と女性が食事するシーンでは、スクラップ&ビルドが繰り返される街について言及している。
さらに加瀬亮演じる船員は、湾岸地域の現状を指摘したうえで「(この海からは)誰も見たくない嫌なものが見えるよ」と言ってる。

そういった表現から、この作品を観てると、都市の乱開発の様子がイメージされる。
何らかの計画で野山を切り崩し、海を埋め立てたものの、その計画が頓挫したのか、中途半端に手を付けたまま放置されたままになってる東京湾岸の埋立地。
それはもしかしたら、自然破壊の象徴的な現状であり、その有り様を「誰も見たくない嫌なもの」と言いたいのではないだろうか?

殺人と幽霊の物語に自然破壊って、飛躍した考えに思えるかも知れないが、この作品と自然との関わりは他でも示されている。
この作品は“さけび”というタイトルであり、同じタイトルの有名な絵画にムンクの『叫び』がある。

両手を顔の横に当て、口を大きく開いた人物を描いたこの絵は、その人物が叫んでいるように見えるが、実は周囲から響く“叫び”に恐れおののき、耳を塞いでる姿だという。
そしてこの絵の中に響いてる“叫び”とは「自然を貫く果てしない叫び」なんだそうだ(参考・ウィキペディア)
赤い服の女幽霊が作中で初登場したときの姿も、まさにムンクの『叫び』を彷彿させるポーズだ。(追記・これは間違い。作中に『叫び』のポーズでの登場は有るが、初登場時じゃない)

こうした自然や絵画『叫び』との関連から、本作中の“叫び”にはこの世に居ない者たちが発する叫びと、自然が発してる叫びが存在してると解釈してみる。
そのうえで作中では一度だけ、女幽霊が発した叫びが地震とリンクする表現が挿入されてる。
この表現は、死んだ者が発する叫びと自然の叫びを同一視したものであり、乱開発で死んだ自然が発する“叫び”が、地震として現実に影響を及ぼしてる様子を表現していたのでは?

また作中の殺人は、もともと愛し合う仲だったが、ある時期から“手に負えなくなる”または“愛想が尽きる”などによって「全てを無くす行為」として行われてる。
その構図は、作中で示唆されてる自然と人間の関係にも当てはめが可能だ。

本来、自然と人間は共存共栄の関係だったが、ある時期から人間は自然を顧みなくなり、破壊し尽くされた自然の現状を無視し続けた。
そして現在、遂に自然は人間を見限り始めていて、近ごろ頻発する地震は、自然が「全てを無くす行為」として引き起こしているのではないか?
先程も挙げた食事のシーンで主人公が「頻発する地震が繰り返されるうちに日本は海に戻るのでは?」と冗談っぽく言ってるが、実はコレって重要な示唆だったのかも。

ラストシーンは幽霊が「私は死んだ…だからみんなも死んでください」と呟く中、主人公が歩いて去っていく姿を映し出す。
このシーンを、ここまでウダウダ書いてきた事柄を含め、作中の精神科医の言葉を借りて解釈すると、自然が幽霊として現れて人間を責め立てている姿に見えないだろうか。
しかし人間は、再びやり直すことも叶わないまま、死んだ者たちの亡骸を抱え、自らの「真実」を邁進していくしかない。

そして、作中での幽霊や自然の叫びは、そうした事柄に気づいた人々にしか聞こえない。
また聞こえたとしても、あのムンク絵のように耳を塞いでいる。

最後のワンシーンは、そういった意味があったのかな?
知らんけど。

他にも、最初に死んだ女性が小西真奈美に似てることとか、赤い服の意味とか、2人の幽霊の意味とか、色々言いたいことはあるけど書き切れない。
それに考えるの疲れたから終わり。

【余談】
幽霊も行儀よく玄関から出入りするかと思いきや、ダイナミックな登場シーンもあってオモロい。

3/17 一部修正
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