垂直落下式サミング

アフリカの女王の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

アフリカの女王(1951年製作の映画)
4.3
古くはサンタマリア号から艦隊これくしょんまで、船というのは女性の名を名付けられ、乗組員から女性として扱われることが多い。これは大航海時代に海を支配したイギリスの風習が広まったとか、古代の狩猟民族たちが河川を産道に船を子宮に見立て自らを海の子としたからだとか、気まぐれな天候に左右されながら航海を続ける男所帯の船乗りたちが女性の同伴者を求めたためだとか、説得力のあるものから憶測に過ぎない説まで様々なものがある。
本作に登場するのは「アフリカの女王号」というからどんな立派な船かと思いきやとんだボロ船。そのボートでハンフリー・ボガートとキャサリン・ヘプバーンが川下りの珍道中をするロード・ムービーならぬクルージング・ムービーだ。
映画が娯楽の王さまだった時代、映画は見知らぬ土地の風俗を見知りする楽しみを与えてくれるものだったはずで、それがアフリカの風景ともなればなおのこと物珍しく、銀幕のスターがその風土に身を置き冒険する様子は、それだけで価値のあるものだったのだろう。スクリーンプロセスによる合成とはいえ、雨に降られ滝に飲まれの水を用いた撮影は素晴らしい。スターたちがずぶ濡れになって、髪はボサボサに、服はボロボロになっていく。
アフリカ見聞録として価値は十分で、『ハタリ!』のように野性動物に接近することはないが、船上から水浴びをするゾウやカバを優雅に眺める。特に、ワニの群れが段のある所から川に飛び込んで腹打ちする映像に心がおどる。ワニですよ!ナイルワニ!グスターヴの仲間!でかい!かわいい!
ハンフリー・ボガートがオスカーをとった映画だが本作のメインはキャサリン・ヘプバーン。彼女が演じる貴婦人は、女だてらに気が強く、古くからの高貴なるものの習慣を重んじ、言葉はウィットに富んでいる。無精髭を蓄えた無骨な船乗りが格好つけようとしても手に余る女なのだ。そんな二人が、わりかし早くに二人で危機を脱したことから吊り橋効果的に意気投合し、「チャーリー」「ロージー」と呼び合う仲になるのが気楽でいい。
ロージーはこの時代の男が求めた理想的な女性の姿なのだろうが、チャーリーの言う「君が舵で、俺がエンジンだ」という台詞からもわかるように、この題材にしてミソジニーが前面に出てないのがいいな。序盤はキャサリン・ヘプバーンの女王様っぷりが炸裂。彼女にならツンとすました顔で酒を捨てられたい。それでいてアメとムチの要領で男が本気で弱音を吐けば慰めてくれる。英国淑女万歳!