SANKOU

ものすごくうるさくて、ありえないほど近いのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

太陽の光が地球に届くまでの時間は8分。だからもし太陽が消滅しても地球にいる人々は8分間その事実に気づくことが出来ない。しかしその間、世界は明るく暖かさを感じていられる。
これはオスカーという少年が最愛の父の死の8分間と向き合う物語だ。
アスペルガー症候群のオスカーは自分の感情を抑制することと人とコミュニケーションを円滑に取ることが苦手だ。
そして人一倍こだわりが強く、一度決めたことは意地でも貫き通す。
そんな彼の最大の理解者である父のトーマスは調査探検という遊びを考え、オスカーが世界と結び付くのを手助けしていた。
ある日トーマスはオスカーに、幻のニューヨークの第6区を探し出すという任務を与える。
しかしトーマスは9.11のテロに巻き込まれ帰らぬ人となってしまう。
トーマスが留守電に何度も自分の無事を知らせようとメッセージを残す場面がとても生々しい。
彼は自分の運命を悟っていたのだろう。
その留守電を聞くうちにみるみる表情が変わっていくオスカー。
正直この物語はオスカーに感情移入が出来ないと共感するのがとても難しい作品だ。
彼はトーマスの留守電の内容をすべて録音するが、それを母のリンダにも聞かせずに自分の中に閉じ込めてしまう。
父の死を受け入れられないまま一年が過ぎ、オスカーは父との8分間が消えていくのを感じる。
父の死後、初めて父の部屋に入ったオスカーは誤って壺を落としてしまうが、その中に封筒に入れられた鍵を見つける。
封筒にはブラックと一言書かれていた。
これは父が自分に残したメッセージかもしれない。
オスカーは電話帳を借りてきて、ニューヨーク中に住むブラックの姓を持つ人たちを片っ端から訪ねることを決心する。
トーマスに対してはとても親愛の情を持って接していたオスカーだが、リンダに対してはとても冷たい。
彼の行動を心配するリンダに対して、死んだのが母だったら良かったのにと言い放ってしまう。
リンダも癇癪を起こすオスカーにどう接して良いか分からずにいるようだ。
パニック防止用のタンバリンを片手に、オスカーはニューヨーク中を駆け巡るが、手がかりは一向に掴めない。
そんな時、オスカーは向かいに住む彼の良き理解者でもある祖母の家の間借り人と出会う。
発声障害を持つその老人はメモを通してしかコミュニケーションが取れないが、彼はオスカーの調査を手伝うと申し出る。
父と同じように肩をすくめるその老人に親近感を覚えたオスカーは、悪態をつきながらも彼と共に鍵の手がかりを探す。
もちろん父が残したメッセージの謎解きという面白さもあるが、この映画の主題はそこではない。
オスカーはついつい自分の思いを捲し立ててしまうところがあるが、彼の心の一番深いところにある傷は誰にも話せない。
人にはそれぞれに誰にも話せない秘密がある。
物語が進むにつれて、オスカーが出会う様々な人たちの心の傷や優しさが浮かび上がってくる。
そして彼は様々な出会いを経験して、人に心の傷を打ち明けることで救われ、また真実を知り傷つけられる。
実は鍵の正体は父とは関係ないことが分かってしまう。
オスカーは誰にも話せなかった秘密を、鍵の本当の持ち主に打ち明ける。
本当は電話に出られたのに、現実を直視出来なくて父の最後の電話に出られなかったこと。
何度もそこにオスカーがいるのを確かめるように、「いるのか?」と繰り返すトーマスの声が悲しい。
最終的に鍵が父と繋がらなかったことで絶望するオスカーを救ったのはリンダだった。
実はリンダはオスカーの行動をずっと見守っており、彼に先回りしてブラックの姓を持つ人たちを訪ねていたのだ。
息子が訪ねてきた時のことをお願いしに。
オスカーが納得するまで見守ろうと決めたリンダの強さに心を打たれた。
そしてある日、オスカーは父がどこにメッセージを残したのかに思い当たる。
そこには父からの「君は自分の素晴らしさを証明した」というメッセージが残されていた。
世界は残酷だが、同じように世界は時に人に優しい。
最後は人の優しさを、太陽の明るさや暖かさと同じように感じられる良い作品だった。
SANKOU

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