MasaichiYaguchi

ものすごくうるさくて、ありえないほど近いのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.9
この作品は2001年9月11日のアメリカ同時多発テロをモチーフに、人々が喪失から回復し、そして希望へと向かって歩んでいく様を一人の少年の冒険を通して描いている。
ジョナサン・サフラン・フォアのベストセラー小説をトム・ハンクス、サンドラ・ブロックのキャストで、スティーブン・ダルドリーが監督、脚本はエリック・ロスが担当と、アカデミー賞でお馴染みのキャスト、スタッフで映画化されている。
アメリカ同時多発テロで大好きな父を亡くした少年オスカーは、テロから一年経過してやっと父の部屋に入る。
その際にオスカーはクロゼット内の青い花瓶を割ってしまい、中から出て来た「鍵」の入った「ブラック」と書かれた封筒を発見する。
オスカーは、遺品であるこの「鍵」が父のことやその存在に近づく“アイテム”だと考え、封筒に書かれた「ブラック」をヒントにニューヨーク中の「ブラックさん」を訪ねる「調査探検」を開始する。
この少年は頭が良く、電話帳から「ブラックさん」を抜き出してニューヨークのブロックごとに分類して計画的に訪問していく。
ニューヨークで少年が初対面の人々の所へアポ無し訪問する危険性を観てて感じたが、一部突っけんどんに追い返す人もいたが、大半はオスカーを温かく迎え入れていく。
この「調査探検」には後に「相棒」が加わる。
この「相棒」は近くに住む祖母の「間借人」だが、言葉が話せないお爺さんなのでオスカーとは筆談で遣り取りする。
この人物も、ストーリーが展開するにつれ、ただの「間借人」ではないことが分かってくる。
同時多発テロが与えた物理的ダメージよりも、残された人々に与えた精神的ダメージが如何に大きいかを本作を観て痛感した。
家族の大黒柱である父・トーマスを亡くしたことによりオスカーと母・リンダとの間にも溝が出来てしまう。
一見、愛情薄そうに見えるこの母とオスカーとの遣り取りが痛ましいが、これが終盤に大きく「反転」する展開が見事だ。
やがてオスカーがニューヨーク中を探し回った「鍵」が何であったかが、同じく父親の遺品である「紙片」から一気に解決する。
この作品の素晴らしさは、ご都合主義の安っぽい結末にしていないところに有ると思う。
「鍵」を巡る「調査探検」で出会った様々な「ブラックさん」、「相棒」だったお爺さん、そして母・リンダ、生前の父との「調査探検」の課題であった「第6区」、様々なささやかなエピソードがジグソーパズルのピースの様に一つ一つ結び付いていって、やがて大きな感動となって我々に押し寄せてくる。
それにしてもトム・ハンクスやサンドラ・ブロックと云うベテラン演技派と対等に渡り合った、演技経験皆無というオスカーを演じたトーマス・ホーンには最初から最後まで心を鷲掴みされました。
東日本大震災を経験した我々にとっても、本作で描かれたものは心に響くものがあると思う。