湯っ子

永遠の人の湯っ子のレビュー・感想・評価

永遠の人(1961年製作の映画)
4.5
将来を約束した好きな男がいるのに、地主の息子に無理矢理手籠にされたあげく、妊娠。泣く泣くその男に嫁いだ女の四半世紀を描く。
高峰秀子がひとりの女性の娘時代から初老になるまでを見事に演じている。

阿蘇の大自然、フラメンコギターとカスタネットの音色、熊本弁の歌詞。カメラの撮り方や構図がキマッていて、古さを感じさせない。




以下ネタバレ




映画の大半は、高峰秀子演じるさだ子と、仲代達也演じる平兵衛のいがみ合い。平兵衛は恫喝、威嚇、暴力をぶつけるが、さだ子は全然負けていない。嫌悪感丸出しの表情と声色で、チクチクと嫌味を言う。
正直、私はこれは何を見せられているのか?との思いが消えず、登場人物の誰にも感情移入できないでいた。
ただ、目の前で痴話喧嘩をされる子供たちが不憫でならなかった。強姦の末にできた長男・栄一は、一番の被害者だろう。

好き同志なのに結ばれなかった隆については、夫婦の会話、というより喧嘩の中で何度も名前が出てくるが、実際に隆が登場する場面は少ない。
隆が一度、里を出て行ってから戻ってきてからも、さだ子と隆が心を通じ合わせる描写はない。
これは、わりと最初の方で答えを出しているのだ。隆の妻友子に対し、さだ子が「隆のことはもういい、隆と一緒だった頃の昔が恋しいだけ」みたいなことを語っている。これは、強がりや方便だと観客は思うし、さだ子自身もそう思って発したセリフだろう。
しかし、実はこれが本心だったのだと思う。
そして、さだ子自身もそれが本心とは気づいていないのだ。

この映画最大の見せ場は、終盤のさだ子と平兵衛
の攻防だろう。鬼気迫る場面なのに、少し笑ってしまう。
劇伴のフラメンコギターに合わせて歌われる歌詞のように、鬼になったさだ子の面目躍如。ちょっと愉快になる。
そして、平兵衛。同情したくない気持ちもあるが、彼の心の柔らかさが明らかになる。
この攻防からのラスト、切れ味が素晴らしい。

そしてもうひとつ印象深いのが、政治犯となって追われる立場になった次男とさだ子の草千里のシーン。
生まれ育った家を否定し棄てた次男は、静かに母親を拒絶する…最後まで笑顔を絶やさずに。


愛と憎しみは表裏一体…


さだ子の「あーた(あなた)」のバリエーションがすごい。これが大女優・高峰秀子なんだな。
湯っ子

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