Koshi

無能の人のKoshiのレビュー・感想・評価

無能の人(1991年製作の映画)
3.7
「父ちゃん、ボク迎えにきたよ」

原作を読んでからの鑑賞。

主人公は漫画家。だけど仕事がない。このままではこの先漫画で食っていけないと思い、中古カメラ屋や古物屋を営んだりしたが結局どれも上手くいかなかった。
そして、今は石を売る商売をしている。しかし、1つも売れたことはない。当然だ。その辺の川辺で拾ってきた石だからだ。
この映画は、漫画家なのに漫画を描かず、石を売る商売をしているそんな「無能の人」のお話である。



基本的には原作を忠実に再現しているのだが、いくつか場面が原作とは前後しており、改変が見られる。原作の雰囲気を保ちながらの改変なので、原作を読んだ人も納得できるんじゃないかと思う。上手く107分にまとめ上げられていたなとも思う。
最後のシーンからのエンドロールは、素晴らしかった。自分の中でこの作品の評価があのラストシーンでぐーんと上がったと思う。


また、「日の戯れ」という作品が、この映画の中で再現されていた。競輪場の車券売り場窓口の場面である。原作よりも映画のほうがなんだか可愛らしい話だなって思った。あのときの風吹ジュンは可愛らしかったなあ。




私の1番好きな場面は、石のオークションの場面である。原作では主人公の石に誰も見向きもしなかったのだが、映画ではしっかりオークションが始まった。
奥さん(風吹ジュン)が、途中から参加する場面には笑わされた。奥さんが夫の石の値段を吊り上げる役をするのである。4万円までは驚くほど上手くいっていたのだが、欲をかいたのか、5万円だと言ってしまい見事にドボン。自分がお買い上げしたというオチには、大笑いした。1割のマージン代も狂会に取られて5万5000円の損害である。
全く夫の石に見向きもしなかった奥さんが、あんなにオークションで盛り上がるなんて思わなかったので妙に可笑しかった。あのシーンは確実にこの映画の見所であろう。





原作はとにかく何をやっても上手くいくことがなく、救いようのないくらい終始暗ーい話であった。しかし、この映画は少し違う。
原作の暗さは確かに健在なのだが、その暗さの中に一筋の希望の光を映し出している。
それが竹中直人監督の『無能の人』なのである。
Koshi

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