真一

ショーシャンクの空にの真一のレビュー・感想・評価

ショーシャンクの空に(1994年製作の映画)
4.1
 強大な権力に抑圧された場合、あなたは自由を求めて抗うか。それとも権力に服し、ささやかな居場所を見つけて安住するかー。米国の終身刑務所を舞台としたこの映画は、3人の受刑者の生きざまを通じ、観る人にこう問いかけてくる。「生きる意味」を考えさせられる名作だ。

 3人のうち1人は、無実の罪で終身刑になった元銀行の副頭取。主人公のアンディー(ティム・ロビンス)だ。アンディーは暴力と腐敗にまみれた刑務所幹部に対し、面従腹背の姿勢で臨む。信用を勝ち取り、マークが甘くなったところで脱走する狙いがある。脱走に向けた彼の不屈の意思を支えるのは「希望」だ。

 2人目は、同じく終身刑の受刑者で、囚人から看守まで巻き込んだ物品横流しを「闇商売」としているレッド(モーガン・フリーマン)。仮釈放を期待するが、刑務所生活にそれなりの心地よさを感じている。権力の目が届かないところでちゃっかり利益を得ることは、レッドにとってのささやかな楽しみでもある。重視しているのは権力との「折り合い」だ。

 3人目は、終身刑で既に50年も刑務所暮らしを続けているブルックス(ジェームズ・ホイットモア)。権力に従順だ。古ぼけた図書室の管理を任されたブルックスは、誰も来ない図書室を安住の地と見定め、何事もなく一日が終わることにささやかな喜びを見いだしている。特徴は権力への「迎合」だ。

 そして今回、20年ぶりに「ショーシャンクの空」を見直して思った。「この3人のどの生き方にも、自分は共感できる」と。前回観た時は、強靭な意思を持って脱獄したアンディーしか目に入らなかった。今回は、レッドはもちろん、カラスの赤ちゃんを可愛がることを人生の喜びとしたブルックス老人の生きざまにも、切なさと同時に、尊さを感じた。

 ひとりぼっちで気弱なブルックス老人は、50年もの囚人生活で、一体どれだけ看守に殴られ、怒鳴られたことだろう。どれだけ他の囚人にいじめられたり、恫喝されたりしたことだろう。そんな中で彼が身を守る方法は、周囲に迎合し、目立たないように日々を過ごすことだったと思う。だから図書室の管理は、うってつけの仕事だったに違いない。そして、迷いこんできたカラスの赤ちゃんを愛し、育てることに人生の喜びを見いだした。権力に押し潰され、虫けらのように扱われながらも、人は人として生きようとすることを、ブルックスから教わった気がする。

 確かにブルックスが仮釈放後、塀の外で生きる意味を見いだせず自死したのは悲しい。だが、彼があのような最期を遂げたのは、人としてのプライドがあったからだとも言える。愛する人どころか、知り合いさえいない俗世間に放り出されたブルックス。きっと「人はパンのみに生きられない」と感じたに違いない。自室の柱に刻まれた「ブルックスはここに生きていた」の文字をみて、目頭が熱くなった。彼は生きた。生き抜いたんだ。かけがえのない、たったひとつの人生を。

 本作を観て「カッコーの巣の上で」を思い出した。ラストシーンは、脱走したチーフが曇り空の荒野に一人で歩いていく「カッコー」に比べ、まばゆい太平洋の沿岸でアンディーがレッドと再開する「ショーシャンク」の方が、よりハッピーエンド色は強い印象を受ける。しかしストーリーを振り返れば、前述した通り、ブルックスの生きざまにも優しい眼差しを向けている。いろいろな見方が成り立つヒューマン映画。それが「ショーシャンクの空」ではないかと思った。どんな権力も暴力も、人を人たらしめているものを奪うことはできない。
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