Torichock

ソーシャル・ネットワークのTorichockのレビュー・感想・評価

ソーシャル・ネットワーク(2010年製作の映画)
4.8
「The Social Network/ソーシャル・ネットワーク」

2011年のマイベストであり、僕にとってはオールタイムベスト映画の本作。ちなみに就職活動で"好きな映画は?"と聞かれて答えるのは、この映画でした。
恐らく、もう5、6回見直した映画であり、僕の敬愛するデヴィッド・フィンチャー作品です。
2012年に10億人のユーザーを超えたソーシャル・ネットワークサービス、facebookの立ち上げとその裏側を描いた作品です。

本当にいろんな要素が詰め込まれているので、どこを取り上げてこの作品を感じるかによって人によっては、好き嫌いがハッキリと分かれる作品だと思います。

僕はこの映画の持つクールな客観性、突き放したような作風の中に鈍く光る、青春の取捨に胸がかきむしられるような、そんな切なさをいつも感じてしまう作品です。

本作から、今公開中の"GONE GIRL"まで、デヴィッド・フィンチャー監督の作品はトレント・レズナーが音楽に参加しています。切なく甘い旋律の裏で、不安定な低音が鳴り響く。その音のコントラストが本当に素晴らしいのと、成り上がっていく映画として音楽のノせ方が本当にカッコ良かった。
こう考えてみると、"ソーシャル・ネットワーク"以降のフィンチャー作品のサントラを持ってる僕は、トレント・レズナーの音楽がおそらく肌に合うんだと思います。

なぜ、この映画が僕にとってここまで心を揺さぶるのかは、本当に言葉にしづらい映画ではあります。
一人の天才が、栄光を勝ち取るために仲間との決別をする苦い青春映画でもあるし、またその天才が、10億人の友達を手に入れてもなお取り戻すことのできない、傷つけてしまった愛しき人の心にノックをする恋愛映画としてでもあるし、ただ単純に世界で一番有名なSNSサービスの成り上がりを見てアガる映画でもある。
しかし、この映画の特筆すべき点は、安直に主役への感情移入ができない作りになっているところだと僕は思います。
この映画の主役は紛れもなく、この天才・マーク・ザッカーバーグなのに、どうしても感情移入の余地を与えない印象を、"最後のシーンまで"与えない作りになってるように思えます。
唯一、僕らがもっとも感情移入できる余地を残しているのは、マーク・ザッカーバーグに見限られ、彼を訴訟するアンドリュー・ガーフィールド演じるエドゥアルド・サベリン。
10億人の友達作るために裏切った(見限った)かつての友に法廷の場で言われる、"I was only your friend"というセリフに、本当に胸が苦しくなる。

そして、そのマーク・ザッカーバーグに多大な影響を与えた、"ナップ・スター"の元CEO:ショーン・パーカー
というかつての勝ち馬。
彼の登場により、マークとエドゥアルドが友として築き上げたその"家"から、エドゥアルドのものを全てかっさらう。スマートにクレバーに、その全てを奪い去っていく役柄を演じたジャスティン・ティンバーレイクの俳優力が本当に素晴らしかったし、憎らしかったし、敵わねえやと思ってしまいました。

また本作でもう一つの訴訟を起こしているのは、facebookの発想が、ハーバードコネクションというSNSサービスの発案の盗作だと訴えるウィンクルボス兄弟。彼らの存在は、本作ではブラックなコメディリリーフ的な位置にはいるんだけど、それでも彼らと同じように、自分たちの地位にうぬぼれることなく邁進しようとしてる人が、この映画の中では出し抜かれる。

それぞれの登場人物が持つ様々な意図や感情、夢を固執することなく万遍なく描いているせいか、どこの視点から見ればいいかわかりづらい構造に見えるかもしれません。
まして、キャラクターに感情移入にして、物語から生まれるカタルシスを、キャラクターと共に一緒に感じる=映画鑑賞、とするスタイルの人もいるだろうし、普段見ている映画と見比べてしまうと、嫌な奴に振り回らされる地味な会話劇という印象を抱き、この映画に"つまらない"という感情を抱いてしまうかもしれない。それもわかりますし、うなづけます。
が、やはりこの映画が行くつく先がそもそもそこではないというところなのではないでしょうか?
そう、主役としてはあまり感情をあらわにしないマーク・ザッカーバーグと同じように、この映画のクールでドライで突き放した様な作風を保っていると思う。
しかし、クールでドライで突き放したように見えた本作でも、少しずつだけど、マーク・ザッカーバーグの心が響いてくる何かを、ちゃんと刷り込ませてくれると僕は感じました。
なぜなら、一見すれば最初から最後までマーク・ザッカーバーグが変人で天才で感情移入をさせる余地のない特別な存在だったのに、最後の最後シーンで、彼が10億人の友達を築いてもなお、心の中にいたエリカに友達申請をするところ。あのクリック音は、誰かに心を開くことへの鎮魂歌、宇多丸先生がいうところの魂のノック、のようにも聞こえる。
その先には、エリカだけではなく、エドゥアルドもいたのではないかと思わせるようなそんな終わり方。

その前のカットで、恐らくはショーン・パーカーに乗せられて作った"I'm CEO,Bitch"という名刺を、後悔にも見えるような表情で眺めるその姿。

このラストで畳み掛ける、今まであまり露わにされなかったマークの心を感じる。ここは、僕にとっては涙なしでは語れないシーンにでした。
そこらへんの演技力、やはりジェシー・アイゼンバーグの力量が半端ないなと思わせる部分であり、僕が一気にファンになってしまう存在でもありました。

僕はやはり、何度も見てもこの多角的で冷たくて温かい映画が大好きです。
後世に残るべき傑作だと思います。
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