都部

ドラゴンボール EVOLUTIONの都部のレビュー・感想・評価

ドラゴンボール EVOLUTION(2009年製作の映画)
1.7
近年 監督本人も映画史に残る失敗作と認め公式の場で謝罪が成された本作。鳥山明による大ヒット漫画『ドラゴンボール』の実写化とは名ばかりのとびきりZENKAIパワーな奇想な作品なのは事実ですが、ツッコミどころが満載という意味で一定の面白味が保証されている作品であるのも事実で、良くも悪くも狂ったテンポで進行する本編を追うのは容易で楽しめることには楽しめました。

まず85分という短い尺の中で、悟空と御飯の死別/ドラゴンボールを巡る冒険劇/悟空とチチのロマンス/ピッコロ大魔王との対決、これらを網羅するのは仮に忠実に原作通りに実写化したとしても無理のある詰め込み具合であり、この時点で敗戦処理の雰囲気漂っているのは否めません。

個人的に厳密に作品を実写化しろという気持ちは薄く、再構成をした上で原作の題目の要点を抑えていれば、それは忠実に映像化するよりも完成度の高い作品が出来上がるとすら思っているのですが本作はそれすら出来ていない。

原作に影も形もないナード個性を与えられた便宜上は話の中で孫悟空と呼ばれる白人が主役を張っていますが、この物語を通した独自の成長にそれらのプロフィールは活かされず、また原作の孫悟空が持つ作劇上の役割に対しては無視に無視を重ねていきます。このキャラクターの立ち位置の違和感に関しての問題は他のキャラクターにも挙げられるのですが、長くなるので箇条書きで今回はまとめていきます。

ブルマ⇒可もなく不可もなくだが、改めて名前を聞くとここまで内容変えるなら名前を変えろよと言わずにはいられない。『ブルマ・ブリーフよ』バカみてぇな名前してんな。下手に現実世界と地続きの物語だから違和感が大きいですね。

亀仙人⇒ミリしらで制作した感じのなんちゃって要素が強くて好き。頭皮は禿げあがっておらず、さしてスケベでもなく、なんならテンションが一貫しておかしい。師匠らしいことはほぼしない。

チチ⇒バカみてぇな名前してんな2。類型的なアジア人描写は鼻に着くのもありますが、添え物としてのヒロイン以上でも以下でもない立ち位置を思うとブルマと役割を一本化した方が良かった気も。

ピッコロ⇒顔色の悪いジム・キャリーのマスクを想起するビジュアルで、ふわりとした野望を叶える為にピッコロ大魔王の物真似に真面目に勤しんでいる印象でした。敵役としての魅力に欠ける。

これらを総合すると、ドラゴンボールを下敷きとした頓珍漢なC級映画として楽しめる素養は持ち合わせているのですが、どうしても擁護できないのは気を使った戦闘描写で迫力が皆無です。序盤のスローモーションの多用はダサすぎますし、かといって貧弱なCGIによる戦闘も面白味に欠ける。それは孫悟空の人並外れた戦闘能力の説得力を損なっていることを意味しており、起点となるブルマのボディガードとして旅に同行するプロセスの時点で観客は集中力を躓きを免れません。決め技であるかめはめ波の扱いもぞんざいで、最初に使われる場面が心臓マッサージ──死ぬだろ──なのも論外ですし、ピッコロ大魔王との戦闘における一連のシークエンスは酷評に相応しい絵面です。

また脚本構成もイカれていて、序破急の尺の配分がとにかく無茶苦茶なことこの上なく、間に挟まるはずの冒険劇はダイジェストの如くほぼほぼカットという凄い判断を下しています。その割に亀仙人に会うまでに30分も使ってるのは……85分の映画で許される配分じゃないだろ。また役割をブルマに委託すれば完全に不要な存在であるチチとのイベントの為に挟まれる無駄なシークエンスが多く、作品の感情線や方向性がてんでバラバラに交錯しているのもノイズでした。

総評として作品を原作通りに再現するのを早々から諦めている割に、原作の要素を中途半端に拾うので不出来がより目立つ作品になっているのは否めません。でも笑える場面はあったので、面白かったです。
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